#05 堕ちる/エピローグ
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「お待たせいたしました、アイスコーヒーです」
「ああ……サンキュ」
翌日、放課後。俺は一人、胡乱の店を訪れていた。
店内は相変わらず閑古鳥が鳴いていて、これでよく経営が成り立つものだと感心さえ覚える。
そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいると、不意に胡乱が話しかけて来た。
「それで、如何されたのですか?氷室様も連れず、お一人で此処にいらっしゃるとは」
……見透かされている。別に、なんとなく来た訳ではないことを。それが、不気味ではあるが――同時に、少し有り難くもあった。
「……なぁ、胡乱。結島は、何で死んだんだろうな」
「それは……死因を尋ねている、訳では御座いませんね」
「当然だろ。……何で、死を選んだのかって話だ」
一晩考えたが、結局理解できなかった。
死にたがった男。何かを憎み、一人で結論を出して一人で復讐を終えた男。彼は――何故、生きることを選択肢から外したのか。
胡乱は特に悩みもせず、相槌のように返答した。
「それは、彼が伽藍洞だったからで御座いましょう」
「伽藍洞?」
「ええ。何も無い空虚、孔を抱えた喪失者。そう在ることは時として、死よりも苦痛で御座いますから」
その回答は、何処かしっくり来なかった。
確かに、結島の言動と照らし合わせて考えれば的を射ているようにも思う。けれど――――
「何も無くは、無かったんじゃないか?」
「ほう、それは何故」
「だって、あの人は確かに何かを憎んでた。憎しみがあるなら、完全な無ではないだろう?」
俺の問いに、胡乱は静かな声で答える。
「いえ、紛れもない無で御座いますよ。何故なら、彼の憎悪は意味が無い。
彼が憎んでいたものは死という「概念」、それそのもので御座いました。
しかし、死はただの摂理で御座います。林檎が落下するものであり、人が飛べぬものであることと同じ不変法則の一つ。
そんなもの、幾ら憎めど果てが無い。永遠など、無いことと然程の相違も無いもので御座いましょう」
そう言われ、ぐうの音も出なくなった。
反論はできなくも無さそうな理論、その筈だが――なんとなく、否定できないように思えて。
……結局、その質問はそこで終わった。代わりに俺は、一つの疑問を投げかける。
「……結島は、俺に何を言いたかったのかな」
戦いの前、結島が言いかけた言葉。分かる訳がないとは知った上で、俺は胡乱に問いかけた。
胡乱はやはり考える素振りすら見せず、空虚に笑ってこう答える。
「さて、拙には想像も付きません。ですが、意味のある言葉では無いでしょう。
何せ――彼は、伽藍洞で御座いますから。そこに墜落した者は、放つ言葉の意でさえも……自然と、無に溶けるもので御座いますよ」
皆様どうも、作者の紅月です。
遂に、漸く……「墜ちる/堕ちる」完結です!
いやー、長かった。
今回……一章一部は一人の死者の空虚と、法則の理不尽を描く話でした。実力不足で上手く描けず、今見ると納得行かない部分もありますが……書きたいことは書けたのではないか、と思います。
さて、それはそれとして。ここで一つ、設定の補足をさせてください。
本作における戦闘シーンについて、十年以上戦っている月葉が敵わなかった相手に雪霊になったばかりの晶が圧勝した部分。あれを違和感に思った人も居るのではないでしょうか。
実は本作の戦いは、基本三つの要素で組んでいます。
それは「能力」「状況」「相性」この三つ。
獣と雪霊には、本来えげつない差があります。言っても人型の存在と巨大な化け物ですからね、雪霊の基礎値10に対して獣は100くらいある想定です。
その最低90の差を三要素で埋める、というのが本作の戦闘なのですが……今回は、月葉に能力以外の全てがそっぽを向いていました。
相手にとって武器だらけの森、しかも相手が万全である「状況」は非常に悪く、タフかつ高火力で知性的、スピードも水準以上の相手と低火力で獣相手に急所を狙うしかない短剣は「相性」が悪かった。
対して結島は不意打ちの成功、武器の少ない展望台、負傷によって持ち前の知性が使えないなど「状況」が良く、高火力な武器はタフな相手と「相性」が良い。
だから、晶は圧勝できた訳です。
……では、今回はこの辺で。晶については幾らでも深掘りができるキャラなのですが、そこは別の機会にします。
それでは皆様、また次の後書きでお会いしましょう。
ではではー。