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8話




「妙に機嫌が良かったから、何か良いことあったの?って聞いたら彼氏出来たんだって。あの子モテるけどそういう話なかったでしょ?だからびっくりしちゃって」




「…そうなんだ」




自分でも驚く程低く、平坦な声が出た。




佳奈は龍司と正式に付き合い始めたのか。あの2人がどうなろうと構わなかったし、もう自分には関わりのないことだと他人事として聞き流そうと思っていた。だが、やはり罪悪感を微塵も感じることなく嬉しそうに話したと言う彼女に対して不快感を覚えてはいる。僅かに眉を顰めた陽毬に遥香は怪訝な目を向けた。




「陽毬、どうかした?」




「え?何でもないよ」




咄嗟に誤魔化すと遥香はそれ以上追及することはなく、あっさりと引き下がってくれた。




「そういえば陽毬は彼氏とどうなの?結構長いよね」




安心出来たのは一瞬のこと、今1番触れられたくないことに真正面から切り込まれた。




ひく、と口元を引き攣らせた陽毬はどう答えるべきなのか考えを巡らせる。




いっそ佳奈と龍司のことをバラしてやろうか、と陽毬の中の悪魔が顔を出す。向こうはこれ見よがしに彼氏が出来たと友人経由で自慢して、間接的に陽毬を煽っている。完全に喧嘩腰だ。




バラせば遥香がまともな価値観を持ってる限り佳奈と龍司を軽蔑するはず。遥香は口が軽い方ではないが、陽毬が頼めば同期に話を広めてくれる。そうすれば佳奈に対する周囲の好感度は最低値になるので、傷つけられた陽毬の溜飲が少しは下がる。




が、そんな真似をしても虚しいだけだ。その気になれば佳奈を簡単の評判を落とすことは出来るが、陽毬も無傷ではいられない。好奇の目に晒されることになる。人はこの手のゴシップ話が大好きだからだ。




ここで迷わず遥香に全てを暴露するような人間ならば、易々と彼氏を寝取られることはあるまい。




陽毬は結局、淡々と事実だけ述べることに決める。




「別れたよ、最近」




「え、そうなの?あんなに仲が良かったのに」




やんわりと遥香の目が理由を話すことを促している。友人が短くない期間付き合った恋人と別れたと知れば、理由を知りたいのは当然。前のめりで聞きに来ないあたり彼女の性格が出ている。特に陽毬は龍司とどこに行った、どうやって過ごしたかを遥香に話していたから余計に気になるのだ。




「何というか、すれ違いというか方向性の違いというか」




「方向性って、そんなバンドの解散理由みたいな」




突っ込まれるが、あながち間違いとは言えない。もう推測するしかないが、龍司と陽毬は見据えている先が違った。だからあんな結果になった。




詳細を聞きたがっているのは分かるが、「色々あったんだよ」と話したくないオーラ全開で答える。遥香のことを信用してない、佳奈のことを心配してるわけではなく、自分の口から話すことで傷を抉りたくないだけだ。




「そういうことあるよね、私も高校から付き合ってたのに大学行ってからあっさり別れちゃったし」




するとこちらの意を汲んだのか、遥香はやんわりと会話の方向性を変えて来た。




「そうなの?」




遥香は大学から付き合ってる彼氏がいるはず。なので話に出てくるのは元彼だ。




「そうそう、向こうからしつこいくらい告って来たのに、別の大学行って会う時間減ったら、同じ大学の女子と浮気してたのよ」




当時のことを思い出してるのか顔を顰め、箸を持つ手に力が入っている。




(私と状況が似てるな)




陽毬は友人に寝取られてるのでえげつなさは倍だが。




「まーそんな振られ方したけど、本当に好きだったからさ。悲しいわ憎いわで暫く荒れてたんだよ」




その後、明らかに憔悴してる遥香をバイト先の先輩が心配し、よく声をかけてくれたらしい。居酒屋で働いていたから終電で帰ることも多く、その先輩はシフトが被ると駅まで送ってくれていたと言う。




失恋で傷つき、萎れていた遥香は徐々に元気を取り戻し、ある日先輩から告白された。その人が今の遥香の彼氏だ。




(下心なければ送って行かないよね)




その先輩は傷心の遥香に熱心に声をかけ、ぽっかり空いた心の隙間につけ込んだのだ。恋人と別れた直後に優しくされると絆されやすいとはよく聞く。計画的に行動に移し、見事恋を成就させた。




「最初はまだ元彼引きずってたから断ったんだよ、でもそれでも良いから付き合ってくれって」




「熱烈だね」




「ちょっと引いたけど、当時の私にはあれくらいしつこい方が丁度良かったのかもね」




ふわりと浮かべた微笑みには、少しの呆れと…愛しさが読み取れた。きっかけはどうにしろ、その彼氏がちゃんと好きなのだ。




遥香の彼氏なら、龍司のように裏切ったりしないのだろうとちょっとだけ羨ましくなる。




「つまり何が言いたいかって言うと、失恋の傷は次の恋で癒すと良いってこと」




「いやー、私暫く恋愛はいいかな」




何しろ疲労困憊気味である、色んな意味で。




「そっかー、まあ人それぞれだしね。恋愛から距離置きたいって気持ちも理解出来るから…あ、なら年末はこっち残らないの?」




「そうだね、残る理由もないし幼馴染にも年末年始は実家で過ごすって言っちゃったから」




「幼馴染?…あー、お兄さんの友達の?」




彼女にも兄と朔夜の話はしてたので、すんなり話が通じた。




「いいなー幼馴染。私親が転勤族で中学入るまでは引っ越しばっかでさ、いないんだよねー。どんな感じ?幼馴染って」




遥香に説明を求められるも、陽毬は戸惑ってしまう。改めて考えたことがあまりないからだ。陽毬は頭で考えながら、話し始めた。



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