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7話



月曜日、いつものように始業30分前に出社する。自分のデスクに座ると既に来ていた先輩や同期の佐伯遥香に挨拶をされ、陽毬も返す。先輩の清川は半年前に産休から復帰している。遥香は新人研修で同じ班になり意気投合、同じ部署に配属されてからは一番話す仲になった。佳奈も同じ営業部の同期と行動を共にすることが多いので、意外と会社内での交流は少ない。




総務部は平均年齢が高い。産休、育休を経て戻ってくる人が多いからだ。他部署の場合、戻ってきてもブランクがあることで同僚と自分との差に悩み辞めてしまう人、家庭や子供との兼ね合いで前線の部署から後方の部署に移る人、そしてブランクを寧ろ経験値と捉えバリバリ働く人、と千差万別。総務の仕事はほぼマニュアル通りに進めるので難しいことはなく、基本的に定時退社が可能なので育児とのバランスが取りやすい。




そして職場環境も良い。理不尽に厳しい社員はおらず、だからといって甘いわけではなくきちんと指導してくれる。キラキラとして、それでいて表面上は仲良く振舞っていても裏ではえげつないことを平気で口にする、裏表の激しい人も陽毬が知る限りはいない。企画部や営業部、秘書室といったキラキラとした部署にはそういう人が多いと聞く。




寧ろ厳しい人間関係の中に放り込まれて、荒波にもまれた方がこの先の糧になるだろう。が、やはりこの部署の居心地は良い。そのうち結婚出産したとしても、ずっと働き続けたいと思っている。




(まあそんな予定も、相手もいないけどね)




陽毬はパソコンを立ち上げ、メールをチェックしながら嘆息した。つい2日前に手酷い裏切りに遭ったばかりの陽毬は、「女性の一般的な未来」から遠のいてしまった。別に結婚を意識していたわけでも、願望があったわけでもない。




しかし、ふと思い返すと「彼」は将来についてよく陽毬に訊ねていた。その度、曖昧に答えていたがもしかしたら「将来」を真剣に考えていたのかもしれない。まだ24で、そんな先の事を考えていなかった陽毬と「彼」は遅かれ早かれ別れる結果になっていた、と今は分かる。最悪な形で別れることになったが。




(まあいいや、切り替え切り替え)




初めにオフィスの消耗品の補充、倉庫に行って在庫の確認からだ。








昼休憩のチャイムが鳴り、陽毬は行く途中で買ったサンドウィッチを持って休憩スペースに向かう準備を始める。席を立った陽毬にお手洗いから戻った遥香が声をかけてくる。陽毬は基本的に彼女と昼を食べることが多い。時折佳奈や他の同期、総務の先輩の時もあるが佳奈と食べることはもうないだろう。




「陽毬、お昼食べよう」




遥香はランチバックを手に持っていた。基本的に毎日お弁当を持参してきている彼女の女子力の高さには恐れ入る。陽毬は朝はギリギリまで寝ていたいタイプなので、弁当は作らず代わりに夜は自炊するようにしているのだ。遥香を見習いたい、とは常々思うのだが中々に難しい。




2人は同じ階にある休憩スペースに向かう。大きな窓側にカウンタータイプのテーブル、普通のテーブルと椅子が30台ほど、ソファーやコーヒーサーバーが設置されている人気の場所。各フロアにあるので、早くに来れば座れないということはない。




窓側のカウンター席を選んだ2人は席に着くと、それぞれ持ってきたものを食べながら他愛もない話をする。




「さっきお手洗いに行った時佳奈に会ったんだけど」




佳奈の名前が突然遥香の口から出てきて、陽毬は食べていたサンドウィッチを喉に詰まらせそうになった。急いでお茶で流し込んで無理やり飲み込む。遥香は陽毬が動揺したことには気づいておらず、話を続ける。



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