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5話



『いいのか、いつも彼氏と過ごしてるだろ』


「…どうしよう、別れたって言うと心配させちゃうかな」


何しろ理由が理由なのでメッセージだけで伝え切れるか。それに朔夜は一人っ子で、家族と折り合いが悪いせいか陽毬達を本当の家族のように思ってくれている。彼にとって陽毬は妹も同然。


元カレと別れた理由を、当時関東の大学に通ってた朔夜に兄がうっかり話してしまい彼が怒って電話をかけてきて大変だったことを思い出す。


別に二股をかけられたわけでないし、むしろ元カレは誠実に対応してくれたと陽毬が電話で説得してどうにか宥めたくらいだ。


今不用意に伝えてしまうと、朔夜がどう出るか想像出来ない。


「適当な理由つけよう。えーと、龍司は友達と旅行に行くって言ってたから、私も久しぶりに実家で年越そうと思って…」


すぐに既読がつき返事が来る。


『旅行?珍しいな、ずっと年末年始陽毬と過ごしてたのに』


『偶には友達と羽を伸ばしたいってさ』


『今まで陽毬を付き合わせておいて、自分に用事が出来たらあっさりと辞めるんだな』


「な、なんか怒ってる?」


文字だけなのに、朔夜が怒ってるのが伝わってくるのは気のせいだろうか。


だがすぐに朔夜から「まあいいや、光やおばさん達も喜ぶだろうな。陽毬と年越せるの久しぶりだから」と返事が来て、気のせいだったとホッとした。


朔夜の会社も確か28、29あたりから休みだだった気がする。もしかしたら、同じ新幹線に乗って地元に帰るということもあり得るかもしれない。


(流石にそれはないか)


朔夜は実家には顔を出す程度しか立ち寄らず殆ど陽毬の実家で年末年始は過ごしている。実家より陽毬の実家にいる時間の方が絶対に圧倒的に多い。何なら彼が泊まる部屋も用意されている。


それも彼の事情を知っていれば仕方ないことなのだが。


(朔兄に会うの久しぶりだな)

彼に最後に会ったのは8月。お盆休みで東京に遊びに来た兄を交えて遊んだ時以来だ。


彼は誰もが知ってる大企業の営業でバリバリ働いている。兄が1番の出世頭だと揶揄うとその度に朔夜が茶化すな、と窘めていた。そのやり取りを、仲が良いなと微笑ましく見守っていたのを思い出す


陽毬の知る朔夜は一見とっつきにくい雰囲気を纏ってるが、意外と面倒見が良く優しい性格だ。だが親しい人間以外を相手にすると、不愛想で寡黙になると自己申告していた。曰くあまり人に関心がないらしい。


そんな朔夜が営業?と聞いた時は大丈夫なのかと心配したのだが要らない心配だった。陽毬が心配したところで、何事も卒なくこなしていた朔夜のことだ。どんな職種に就こうと成果を上げていただろう。


陽毬は入社してからずっと総務部だ。佳奈は営業部に配属され、厳しい先輩に扱かれながらも、生き生きとしている。それは陽毬も例外ではない。総務の業務は表立った仕事、というより会社を裏から支える役割を担っていて多岐に渡る。備品整理や発注、社内書類の作成に来客応対に始まり、社内の何でも屋と呼ばれ無茶振りをされることもしばしばだが、その分やりがいも大きい。


陽毬としては営業部に配属された同期達の大変そうな姿を見ると総務で良かった、と思うが総務部は目に見える成果を上げられるわけではない。それを影で地味だとか、誰にでも出来る仕事だと揶揄してる一部の人間がいることも理解してるが、陽毬は今の仕事に不満はなく、割り当てられる仕事を丁寧にこなしている。営業部が取ってきた契約を契約書として纏め、管理するのも総務部の担当なので大きな責任感が求められる。


2年目の陽毬は先輩に付いているが、いずれそういった業務も担当することになる。


が、それまでこの会社にいるのか分からなくなってきた。


同期で友人、そして恋人を寝とった相手が同じ会社にいる。考えるだけで気が重くなってくる。


たまに読む漫画で、同じ会社に勤める恋人を同僚後輩に取られた主人公が勢いでキャリアも投げ捨てて、会社を辞めるシーンがあると「そのくらいで辞めなくても」と思うが、自分が当事者になるとその気持ちが良く分かる。



幸いと言って良いのか龍司は別の会社だし、佳奈も別部署。毎日顔を合わせるわけではない。それでも仕事上避けられず顔を合わせ話をする機会があったら、またあの惨めな思いをさせられるのではと不安に駆られる。


プライベートと仕事を混合するなんて社会人失格だと、重々理解してる。頭では分かっていても、心は誤魔化せない。


佳奈と相対する時は気を強く持つしかない。




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