48話
小学5年になると、陽毬が入学してきた。この頃になると周りの男子より抜きん出て身長が伸びていた朔夜に女子が群がるようになっていき、時々「光の妹だから朔夜と仲が良い」陽毬を悪く言う輩が出始めた。くだらないことを言う輩は一人一人に釘を刺して回ったが、高学年の男と仲が良いことは揶揄いの対象になるという。未だに光と朔夜以外の男子に苦手意識がある陽毬にはその状況は酷だろう。
学校では朔夜1人で必要以上に陽毬には近づかないようにした。光が妹に会いに行くのに「さりげなく」会いに行く体を装って。
人見知りの陽毬に友達が出来ているのはとても嬉しく、だからこそ自分が彼女の邪魔をしてはいけないと学校では距離を取り、代わりに学校の外では殊更構った。
陽毬は純粋に朔夜を慕ってくれている。こちらの都合も構わずまとわりつくクラスメートとは違う。名前をつけるなら家族愛に近いものだ、と朔夜は思っていた。
ある日の昼休み、光と階段を登っていた時のこと。踊り場の前に数人の男子がたむろっており、何やら話し込んでいた。
「…なあ、戸塚の親って見たことある?」
「ないな、というかアイツの親って授業参観にも運動会にも来てないんだろ。普通一回くらい来るよな」
「あーそれ、俺の母親が言ってたんだけど、アイツの親『仮面夫婦』ってやつらしい。仲良いフリしてるだけで、本当は仲が悪いことを言うんだって」
「だから運動会も授業参観にも来ないのか」
「いや、ただ単にアイツが親に嫌われてるんだろ」
鋭い言葉の刃が心に突き刺さる。隣の光が今にも飛び出しそうになっているのを朔夜が抑えていた。
奴らはクラスメートだが、やたら朔夜に突っかかっていた。理由は分からないが朔夜のことを嫌ってるのは知っている。嫌われる理由の心当たりは山ほどあったからだ。
(…言われなくても知ってるよ)
たまに顔を合わせると言い争う両親。「朔夜がいなければとっくに離婚してる!」と叫ぶ母親の姿。どちらも朔夜のことを要らないと思っている。それは変えようのない事実。
第三者から指摘されても、心は痛まない。痛むような繊細な心は持ち合わせていない。
「アイツ、親にも嫌われてるのか」
「何考えてるか分からなくて不気味だからな。なのに女子にチヤホヤされてるの意味わかんねぇ」
「なんか可哀想だよな」
「勉強出来るって調子に乗ってるけど、俺なら耐えられないわ。親に嫌われるとか」
ゲラゲラ、と楽しそうな笑い声。アイツら、と怒りに満ちた声を上げる光。
もう我慢出来ない、と光が飛び出そうとした時。




