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46話



本格的に暖かい気候に移り変わりつつあった3月のとある週の土曜。




仕事は相変わらず忙しいが、すれ違いもなく朔夜との仲は良好だ。




佳奈とはあれ以来関わりがない。陽毬が捨てられたという噂はいつの間にか流れなくなっていた。佳奈が沈静化を図ったのか真偽は定かではない。代わりに陽毬には超イケメンの彼氏がいるという噂が流れていて、野次馬感情逞しい同期や先輩が話を聞きにくるのが、少々鬱陶しい。




陽毬は適当にあしらうに留めており、そんな素っ気ない対応しかされないためいつしか態々聞きにくるものも減った。変わったことといえばそれくらいで、陽毬は一応平穏な毎日を過ごしている。




今日、陽毬は朔夜の部屋に遊びに来ていた。陽毬の住む部屋の倍の広さはある2LDKで、家賃を聞いた時は目が飛び出るほどに驚いた。大企業の営業職ともなると、こんなにも良い部屋にも住めるらしい。広さの割に物は少なく、必要最低限しかないのが朔夜の性格をそのまま表していた。




それでも部屋を一つ潰して書斎にしているから、本だけはかなりの蔵書数を誇る。陽毬は遊びに来るたびに書斎の本を読んでいることが多い。或いはテレビを見たり、朔夜と話したりとその日の気分によって様々だ。




陽毬はリビングのフカフカのソファーに腰掛けてテレビの動画サービスを操作しながら、キッチンでコーヒーを淹れている朔夜を待っている。今日の予定は部屋でのんびり。気が変わったら何処かに出かけるかもしれない。




朔夜がコーヒーカップ2つを持ってリビングに戻ってきた。テーブルにカップを置き、陽毬の隣に腰掛けるとテレビへと視線を移す。




「ありがとう」




「ああ…何か見るのか?」




「うーん、これ映画公開された時見に行くタイミングを失っちゃって。見ようかなって」




陽毬が選択した映画は疎遠だった幼馴染が再会する話。ヒロインは婚約者の浮気で婚約破棄をされ、仕事も辞めて途方に暮れバーでやけ酒を煽っていた時幼馴染と再会して…という話。




公開当時は面白そうだな、と軽い気持ちで見ようとしていたが今となってはヒロインの境遇を他人事とは思えないため、視聴するのに尻込みしている。




「これ見たいのか」




「…どうしようかな」




「?見ないのか」




「何というか、純粋な気持ちで見れなそうというか」




陽毬の言葉を怪訝に思った朔夜は映画のあらすじを目で追い始める。すると納得したように「…なるほど」と呟く。




「陽毬は主人公に感情移入しすぎそうだな」




「だよね、絶対元婚約者滅びろってボロクソに言うと思う」




「俺も言うな、アイツの顔が蘇る」




と、実際に思い出したのか眉間に皺が寄る。




朔夜の脅しが効いたのか、完全に拒絶されたことで興味を無くしたのかあれから龍司から一切の接触が無い。連絡先も消してしまったが、共通の知人に頼めば近況くらいは知ることが出来るが、するつもりはない。




折に触れて今日のように思い出すことはあれど、彼と関わることはもうないだろう。しかし、彼が突撃してくれたことで朔夜との関係性が大きく変わった節はある。その点だけは感謝しても良いかもしれない。




(あ、今なら聞けるかな)




「ねえ、朔夜」




「ん?なんだ?」




「何で私のこと好きなの?」




「え?」




朔夜は陽毬の問いにカチン、と固まってしまった後明らかに動揺していた。




「な、何だよ急に」




「何となく?前々から気にはなってたんだけど、ふと思い出したの」




朔夜からすれば寝耳に水であろうが、陽毬からすれば疑問に思って当然のこと。彼は視線を彷徨わせ、所在なさげに黙っている。話すべきなのは分かるが、話すのは…と葛藤しているのが伝わってきた。




たっぷり悩みに悩んだ末、彼としても陽毬にはいずれ伝えるつもりだったのだ、と思う。朔夜は重い口を開いた。








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