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42話



その後、朔夜は床に散乱した服と下着を集めて身に付けるとシャワーを浴びにいった陽毬をクッションに座り待っていた。戻って来た陽毬に勧められて彼もシャワーを浴びに行き、髪を適当に乾かすと帰り支度を始める。




朔夜は普段陽毬の起床時間より早く起きて、色々準備することがあるらしい。だからもう帰らないといけないと。




大したものは作れないが、朝ご飯を一緒に食べようと思ってた陽毬は少し残念な気持ちになる。そんな陽毬の気持ちを察した朔夜はこう言った。




「また次の機会に頼む」




彼の中でまた泊まりに来る、或いは陽毬が泊まりに行く計画があるようだ。先の約束が出来たことで陽毬の中の寂しさか和らぐ。




ルームウェアに着替えた陽毬は濡れた髪のまま朔夜を見送りに行く。




「じゃあな、また連絡する」




「うん、仕事頑張って」




そのまま出て行く、と思っていた朔夜が徐に身を屈めて来た。彼の顔が近づく。あ、キスされると思ったから避けなかった。予想通りに唇にキスをされる。すぐに終わるだろうと高を括っていたら…。




(〜〜〜〜〜!)




朝から激しいのを喰らってしまった。最終的に息苦しくなった陽毬が強引に朔夜の胸元を押し返したことで解放された。




「あ、朝から何!」




顔を真っ赤にして文句を言う陽毬に全く悪びれない朔夜は笑いながら陽毬の頭を撫でると、今度こそ帰って行った。




(滅茶苦茶ドスケベだ!)




閉まったドアを見つめたまま、陽毬は心の中で叫んだ。






*******



朔夜に聞きたいことが出来た時に限り互いの予定が合わずに会えない日々が続いていた。休日も互いに外せない用事が入り、平日も向こうの残業が続き仕事が帰りに待ち合わせすることが難しくなっている。




気が付いたら数週間朔夜と会っていなかった。いや、逆に考えると今までが会い過ぎだったのだ。よく考えなくてもほぼ毎週顔を合わせていた気がする。陽毬は友人は少ないし、休日の予定なんてないようなものだから予定を立てるのに支障はなかった。朔夜は違う。彼も陽毬と同じかそれ以上に友人は少ないが、仕事上の付き合い、やらなければいけないことも桁違いだろう。その皺寄せが今きている可能性があるので、軽々しく会いたいと連絡していいものか尻込みしている。




それを何気なく遥香に話したところ「何遠慮してるさっさとメッセージ送れ」と怒り出し、彼女の見ている前で「今週会えないか」とメッセージを送らされた。




するとすぐに返信が届く。




『今日は定時で上がれそうなんだけど、飯でもどうだ』




スマホを見ながら陽毬は悩む。今日は残業コースが確定してる。しかし1時間残業するくらいなら、待ち合わせは可能だ。「少し残業すると思う」とメッセージを送ると。




『分かった、会社まで迎えに行くから終わったら連絡してくれ』





今まで待ち合わせしたとしても、互い会社の最寄りや行く予定の店の最寄りだった。会社まで来たことはないし、そんな手間をかけさせるわけにはと断ろうとしたら。




「迎えに来てくれるのなら、来てもらいなよ。私生の戸塚さん見てみたい」




遥香がちょっかいを出してくる。朔夜の写真は本人や許可を得て遥香に見せているが、本物に会いたいという欲求を隠そうともしない。




「いや、わざわざ悪いよ」




「本人が来たいって言ってるんだから、良いでしょ」




「えー、でも」




と遥香と問答を繰り返さながら丁重に断りのメッセージを送り、そして予想通り「いや行く」と固辞された。1つ予想外だったのが「陽毬の会社見てみたい」という理由。




会社を見たいのならHPを見れば良いだろう、と返信しても「自分の目で見たい」。




見たいって何を…?彼のメッセージにはただの興味本位以外の目的を感じた。怪訝に思いながらも、陽毬が何を言ったところで朔夜は来ると決めたら来る。最も陽毬が本気で嫌がればその限りではない。強引なところはあるが、彼は陽毬を意識を蔑ろにしない。




結局、絶対来るなと言い出さない時点で陽毬も満更ではないのである。遥香に言わせると「変なところで素直じゃない」と呆れられた。




「戸塚さん来たら女子が騒ぎそうだよね」




「…そうだった」




「あんたは見慣れてるけど、戸塚さんかなりの美形だからね。まあ、寧ろ見せつけてやれば良いのよ。噂を間に受けて影で笑ってる奴らに」




噂、とは陽毬が彼氏と別れたことに加え、別れた詳細な理由…向こうの心変わりで捨てられたと悪意に満ちたもの。噂の出所は言わずもがな。陽毬としては一部の交流もない人間に何を言われようが、気にしないのだが遥香が腹を立てていた。




陽毬は良く言えば落ち着いている、悪く言えば地味なので、見下す人間の気持ちも分からなくはない。




しかし、朔夜が陽毬の彼氏だと分かれば笑ってた人々は一転して陽毬に羨望の眼差しを向けるだろう。それを望んでるわけではないが、少しだけ溜飲が下がるのは事実。




彼を利用してるようで気が引けるが、朔夜のことだから嬉々として利用されにいく気がする。だから、罪悪感を覚えるのは辞めた。





久しぶりに会える、とまるで初めて恋人が出来た時のように初々しい心地でいる。残業なんて憂鬱だが、今日ばかりは爽快な気分で午後からの業務に臨めそうだ。







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