41話
(…)
ふと目を覚ました陽毬の視界には薄暗い部屋と天井。寝返りを打とうとするが、身体に何かが巻き付いていて動けない。巻き付いているものに触ってみると、腕。そして蘇る昨夜の記憶。
(…っ!!!!)
背後から陽毬を抱き締めて規則正しい寝息を立てているのは朔夜。背中に当たる感触からからして彼は服を着てない。そして陽毬も裸である。薄暗い室内で目を凝らすと、ベッドの下に陽毬の着ていた服が散乱している。恐らく朔夜の服もそこら辺に落ちてるだろう。昨日の彼は陽毬をひん剥いた後自分も服を勢いよく脱ぎ捨て…。
(思い出さない…っ)
久しぶりだったせいか、若しくは朔夜が手加減をしてくれなかったせいか身体が怠くて腕を動かすのも億劫だ。しかし、てっきり淡白だと思い込んでいた朔夜があんなだとは。とんだ思い違いをしていた、淡白なんてとんでもない。あれは飢えた獣だ。思い出すだけで頬に熱が集まり、思わず掛け布団を頭から被る。
が、それくらいで昨夜のことが蘇らない訳はなく。
(なんか一生分好きって言われた気がする)
朔夜は何度も何度も陽毬に好きだと囁いた。今まで言えなかった分を伝えようとしているかのように。陽毬の「好き」を軽く凌駕する彼の「好き」はとても重い。
(そういえば、何で私のこと好きなんだろ)
兼ねてからずっと好きだったと朔夜から伝えられているが、具体的なことは聞かされていない。ふと、気になってしまう。
(流石に今は聞けないか…あれ、今何時)
後ろからがっしりとホールドされている陽毬は腕を伸ばしてサイドテーブルに置いてある時計を手に取った。時刻は5時半過ぎ。起きるにはまだ早いが、朔夜のことがある。彼は普通に仕事だし、流石に昨日の服で出勤するわけにはいかない。一度家に帰ってもらうべきだろう。
陽毬は怠い身体でどうにか寝返りを打ち、眠っている朔夜と向き合う。寝ている姿を見るのは学生時代以来。長い睫毛が目元に影を作っており、眠っているせいかいつもよりあどけない印象を与える。
(私より肌綺麗では…?)
それなりにスキンケアに力を入れてる陽毬からしたら、肌が綺麗な朔夜にちょっとした腹立たしさを覚えた。ほぼ八つ当たり気味に肩に手を置き少々乱暴に揺さぶった。
「起きて、一回家帰った方が良いよ」
「……」
「…ぎゃ!」
薄らと目を開けた朔夜は何を思ったのか、抱き枕のように陽毬を抱き締めにかかる。陽毬は色気の欠片もない声を上げ、一頻り暴れた後にやっと朔夜が起きた。
「…起こし方が乱暴」
寝起きのせいか半目の彼は不機嫌そうに呟く。こっちは良かれと思って起こそうとしたのに、文句を言われ反論する。
「起きない方が悪い、もっと容赦なく起こせば良かった?」
「…どうせならキス…いて」
「起きて」
朝からくだらないことばかり言う朔夜の顔に枕を押し付けると、床に散らばった服と下着を集めて取り敢えず身につける。
「…服着る必要あるか。昨日散々見たのに」
ぼんやりとした目で着替えてる陽毬を凝視している。寝起きから陽毬を揶揄うのに余念がない朔夜の言葉に一々反応していたらキリがない。が、それでもやはり反応してしまう自分が恨めしい。
「…恥ずかしいものは恥ずかしいの」
「ふーん、そういえばはっきり分かったな」
「…何が」
何やら不穏な気配がする。朔夜の悪戯めいた笑みを見ると、碌でもないことを言い出す気がしてならない。
「マグロじゃないってこと。元彼が下手か相性が悪かったんだろ。むしろ…んぐ」
「本当に黙って」
案の定、朝に相応しくないことを言い出した朔夜の口を両手で塞ぐ。モゴモゴと何か言っている。やがて陽毬が両手を外すと、流石にこれ以上揶揄うと陽毬の機嫌を損ねると思ったのか変なことは言わなかった。代わりに。
「身体、大丈夫か」
「…ちょっと怠い」
「あー、悪い。やり過ぎた。次からは気をつける…多分」
と身体を気遣うのを忘れなかった。「次」が既に決まってる件については、今突っ込んだら面倒なことになるのが目に見えていたので触れないでおいた。




