36話
陽毬はメニューを見ながら悩みに悩んだ末、ニンニク多めの辛味噌ラーメン、朔夜は普通の味噌ラーメンを頼んだ。一応デートなのにニンニクを食べようとする陽毬。女子として色々欠けてるのは理解している。陽毬は悩んでいたのに、朔夜が勝手に注文してしまった。
「…うーん」
「何そんなに悩んでるんだよ」
「このニンニク辛味噌気になるんだけど」
「ならそれ頼めよ」
「いや…臭くなるじゃん」
「そりゃニンニク入ってるからな」
「…」
「んな悩むくらいなら頼め。呼ぶぞ店員」
待って、と止める暇もなく店員を呼んだ朔夜はさっさと注文を済ませてしまった。
「ちょっと」
「食いたいもん食えばいいだろ、なんでそんなに悩む」
「…ニンニク臭いもの頼むのどうかなって、一応気にしてたの」
以前なら朔夜とニンニクの効いた料理をどれだけ食べようと気にしなかったのに。今日は気にしてしまった。朔夜は納得したように頷いた後、嬉しそうに言う。
「ふーん、前は俺といる時ニンニク料理気にせず食ってたのに、気にするようになったんだな」
「…悪い?」
「いや、ちょっとは意識してくれてるんだなって思って。嬉しいよ」
声がひたすらに優しい。陽毬は動揺してない振りをするので精一杯だった。
悩んだ末に頼んだのに、ラーメンが運ばれてくると葛藤はすっかり忘れ、ニンニク増し増しに夢中になって食べた。
「…そんな勢いよく吸うとスープ飛ぶぞ」
「大丈夫、今日黒い服だから」
「…」
お前さ、と朔夜が何か言いた気な顔をしてたが結局諦めて食べ進めていく。何なんだ、と訝しみつつも陽毬の意識は目の前のラーメンにのみ向いた。
食べ終わると、やはり朔夜が払おうとしたので「付き合わせたから私が!」と強気な態度で出たらあっさりと財布をしまった。立場が逆の時もあり、日常茶飯な出来事だ。店から出るとまだまだ列は続いていた。並んでる女性、彼氏連れの女性までも朔夜に注目していて、隣の陽毬を値踏みするように見ているので、居心地が悪い。
こういう目で見られるのは慣れていた。前は「こんなもんか」と割り切っていたが、今は難しい。これは陽毬の感情が変化しているから、だろうか。
朔夜の気持ちに答えたらこういう視線に慣れていかないといけない。常に値踏みされ、時に蔑む視線に晒される環境に。
陽毬は果たして慣れることが、気にすることなく前を向くことが出来るのか一抹の不安が過る。
そんな陽毬の心情を慮ったのか、もしくは無遠慮な視線に辟易したのか。朔夜は陽毬の右手を徐に繋ぐ。指と指を絡めて握られた。朔夜が手を繋ぎたがるのは珍しくない。が、この繋ぎ方は初めてだ。
朔夜は気だるげに周囲を一瞥した後。
「早く駐車場、戻るぞ」
「う、うん」
スタスタ、と歩き出す。朔夜に見惚れていた女性客はポカンとしている。それを見て、何とも思わない。陽毬が気にするのは、自分の手を握る朔夜の力強さだけだった。




