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35話



それから瞬く間に数ヶ月ほど経った。陽毬の日常生活には朔夜がガッツリと入り込んでいた。




毎週どこかに行こうとお誘いメッセージが送られて来て、時折週1で平日の仕事終わりに食事にも誘われ居酒屋やレストランに行っている。隙を見せると朔夜が全部払おうとするから、陽毬は必死に割り勘にしてもらっている。これでお金も払ってもらったら、告白の返事をしない癖に貢がせる悪女、になってしまう。それだけは避けていた。




互いに予定がない週末は何処に出かけている。便宜上デートと称するが、行き先は買い物や映画館、博物館に美術館と定番スポットやテレビや雑誌で紹介されていた店に行ったりしている。




日曜の今日はドライブがてらに近くの駐車場に車を停めて、行列の出来るラーメン屋に並んでいた。




「うわー並んでる」




「それだけ美味いんだろ」




人数にして10人ほど。店内も広くないから待たされそうだが、ラーメン屋は回転が早い。こうして話しているうちにまた1人店内に入って行った。




「あ、進んだ」




「この調子だと、すぐ座れそうだな」




「そうだね、こんなに並んでるのは予想外だったけど。ごめんね、付き合わせて。退屈でしょ」




このラーメン屋は陽毬の希望で来た。今までも朔夜は陽毬の希望を聞いて店に連れて来てくれたし、多少は並んでいた。ここまで混んでるのは初めてだ。人の付き添いで待たされるのは疲れるだろう、と一言謝る。




「いや、俺もこの店は気になっていたし、それに」




朔夜は意味あり気に言葉を区切り、陽毬を見下ろして来た。




「陽毬と並ぶの退屈しないよ」




妙に優しい声で言うものだから、並んでた女性客がこっちを見てくる、ほんのり赤顔で。朔夜は普通の会話ですら無駄に色気を振りまく。その度に陽毬はタジタジだ。




「そ、そう」




陽毬は曖昧に答える。陽毬も朔夜と並んでいると退屈しない。会話をしていても、していなくても気まずい空気が流れない。長い付き合いだからだろうか。




流石にここでは人目があるから、変なことは言わないがそうでない時、朔夜は好きだ、可愛い、という台詞を平然と陽毬に言う。今では慣れてしまったが、最初は赤面しっぱなしだった。慣れても、心臓が高鳴るのは止めようがなかったが。




要するに陽毬は絶賛絆され中であった。いや、既に…。




(今考えることじゃない、か)




余計なことを考えないよう、陽毬は朔夜に話しかける。




「この店、味噌ラーメンが有名だって」




「ああ、ネットにそう書いてあったな」




「調べたの?」




「当たり前だろ?陽毬の好きな店、好きそうな店は一通りチェックして頭に入れてる。出かける場所を決めるのに役立つからな」




初耳である。確かに陽毬は朔夜に世間話でどの店に行った、どの店の何が美味しかったと伝えてはいた。まさか覚えた上で、出かける際の参考にしてるとは。




「そこまでする?」




「するよ、陽毬に楽しんでもらうためなら」




また柔らかく笑いかける。笑いかけられたことなんて沢山あるのに、その笑みに込められた意味が今までと違うのが分かってると、落ち着かない心地になる。




(年明けて、朔夜と出かけるの楽しかった)




彼はとても気が効く。車には陽毬用に膝掛けを常備し、喉乾いたな、と思ったタイミングでコーヒーを買ってくる。帰りは必ず21時前には送ってくれて、部屋には入らない。




この前寒いからお茶でも、と誘ったら。




「お前のこと好きだって言ってる男を部屋に招き入れるな」




デコピンされて叱られてしまった。そこで陽毬がムキになって。




「何?部屋に入れたらに何かするの?」




と冗談で聞いてみたら、徐に顔を近づけて来て。




「するに決まってるだろ?」




艶っぽく笑いながら迫って来て、陽毬はたじろぎ徐々に壁に追い詰められて行った。慌てた陽毬は必死で朔夜を押し除けようとしたが、大の男に力で叶うわけもなく。




至近距離に朔夜の顔が迫り、「これはもう無理だ」、と何をされるかある程度察し諦めた陽毬が目を瞑った時だった。




「…俺無理矢理何かする趣味ないから。陽毬が俺のこと好きになってくれるなら話は別だけど」




どこか切なげみ目を細めた朔夜は陽毬の髪をわしゃわしゃと撫で回した後、何事もなかったかのように帰って行った。




陽毬はちょっと強引な目に遭ったにも関わらず、朔夜の誘いを受けてるわけで。




答えは出てるような気がするが。いかんせん、勇気が出ないのである。遥香に知られたら「つべこべ言わずに行け!」と尻を蹴られそうだ。




「…陽毬?」




黙って考え込んでいた陽毬を心配し、朔夜が顔を覗き込んでくる。油断していた時に視界に広がる彼の顔。




「っ!」




驚いて思わず、後退ってしまった。陽毬の反応が自分を拒絶してる、と思った朔夜は「悪い…」と眉を下げて悲しげに表情が歪む。




「め、目の前に朔夜の顔があって驚いただけだから」




決して嫌がったわけではない、と説明する。口では足りないと思い、目でも訴えると朔夜の表情が目に見えて明るくなっていく。




陽毬の言動一つで朔夜は一喜一憂する。彼の陽毬への思いの…兄や遥香に言わせると執着の強さが伝わって来た。




そんな彼の姿を見ていると、胸が締め付けられる。




ずっと裏切られた直後に優しくされて、それで好きになるのは朔夜に対して誠実に向き合ったと言えるのか、悩んでいた。遥香の言う通り、土台に親愛としてでも好意がなかったら彼の告白を突っぱねていただろう。顔や肩書きは陽毬にとってはあまり重要視されない。




陽毬が朔夜といて心地よく、それでいて些細な言動、ストレートな言葉に心を揺さぶられるのは。





「陽毬、そろそろ呼ばれそうだぞ」




いつのまにか列が進んでいて、席に案内されたことで陽毬の思考は一旦途絶えて、意識はラーメンへと向かった。





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