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31話



朔夜が帰ってしまい、少しの平穏と少しの寂しさが漂うリビングでの夕食を終えた後、母と食器を洗っている時。




「…お母さんさ…朔兄が…その」




朔夜滞在時、彼の言動を見ても驚くこともなく、平然と(父は当てはまらない)していた。兄が気づいていたように両親も気づいていたのでは?と思ったのだ。だが、面と向かって母親に「朔夜が自分のこと好きなのを知っていたのか」と聞けるほど図太くない。




途切れ途切れで要領を得ない陽毬の問いに、母はあっけらかんと答えた。




「んー?何となくね。朔夜くんは隠してるつもりだったんでしょうけど、うちだと気が抜けたのね。陽毬を見る目が完全に恋する男のそれだったわ」




「…気づかない私って本当に」




「我が娘ながら鈍すぎだと心配したわ。まあ、あんた朔夜くんのことお兄ちゃんと同列に見てたから、無理もないと思ったけど」




「ちなみにお父さんは」




「知ってるわよ?お父さんは複雑そうだったけど、朔夜くんなら安心出来ると言ってたわ。まあ、陽毬の意思を無視して何かやらかしたら速攻出禁にすると息巻いていたけどね」




温厚そうに見えて、怒ると怖い父のことだ。相手が朔夜だろうと敵認定したら容赦なく陽毬と2度と関わらせなかっただろう。




「私以外皆知ってたんだ、そんな素ぶり全く見せなかったのに」




「そりゃそうよ、肝心のあんたが朔夜くんのこと眼中にないんだもの。それに周りが囃し立てても意味ないでしょ。時にはお膳立ても必要だけど、本人が行動しないと駄目よ…やっと決心したってところね、随分時間がかかったみたいだけど」




母は暗に朔夜をヘタレだと揶揄していた。おっとりしてるように見えて意外と辛辣な母は、朔夜に対してはこれでもオブラートに包んでいる。この様子では、近いうちに遠慮することがなくなりそうではあるが。




「朔夜くんに心境の変化でもあったのかしらね、それとも陽毬がフリーになったと知って囲い込みに走ってるのかしら?愛されてるじゃない」




「囲い込みって、怖いこと言わないでよ」




能天気な母が発した穏やかでない単語に陽毬は苦笑する。笑い飛ばしたいところだが、兄の言葉や陽毬への好意を隠す気のない朔夜を思い出すと、それも出来ない。




「まあ朔夜くんお金もそれなりの社会的地位もあるから、陽毬1人隠すことくらい簡単よね」




この母親は冗談で言ってるのか本気で言ってるのか、判断が付かない。




「ねぇ、面白がってるよね」




「面白いに決まってるじゃない」




言い切った母に陽毬はポカン、とするしかなかった。他人事だと思ってこの母親は、と目を細めて睨む。




「面白がらないでよ、こっちは」




「何?嫌なの?迷惑してる?ならはっきり言いなさい。望みもないのに、ずっと待たせるのは酷よ?」




「…」




母の指摘に陽毬は返答に窮する。嫌でも、迷惑なわけでもない。だが、自分の気持ちがはっきりせず、分からないのだ。裏切られてすぐに優しくされただけで、兄だと思ってた相手に心が傾きかけてる、と認めたくない。自分が軽い女だと、思い知らされそうで嫌だった。




「…分からない」




煮え切らない態度の陽毬に母は呆れることはなかった。




「そう、ならよく考えて結論を出しなさい。朔夜くんのことだから1年くらいは平気で待ちそうね」




「いやいや、そんなに待たせたら愛想尽かすよ」




どこのお姫様だ。1年ものらりくらりと返事を先延ばしにしてはっきりした態度を取らない女、陽毬ならさっさと見切りを付ける。百年の恋も冷めるに決まってる。




しかし、母は真顔だった。冗談ではないようだ。




「…え」




「あんた、朔夜くんのこと甘く見てるわ。彼みたいに気持ち押し殺してたタイプはね、解き放たれたら反動で諦めが悪くなるのよ…物凄く」




母の不穏さしか感じられない言葉に陽毬は唖然とするしかなかった。








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