27話
翌朝、陽毬は重たい瞼を無理矢理開きのっそりと身体を起こした。久しぶりの実家のベッドに高校まで世話になった目覚まし時計が示す時刻は8時半。休日は大体この時間まで寝ている陽毬は、たっぷり寝てスッキリとした目覚め、のはずだった。
陽毬の目の下には薄らと隈が出ている。陽毬は昨夜碌に眠れなかったのだ。理由は言わずもがな。
あの後、半ば死んだ目で朔夜の腕の中でじっとしていた陽毬を朔夜はまるで大事な宝物を扱うかのような…と表現するには些か強い力でぎゅうぎゅう抱きしめ続けていて、彼の気が済んだのが5分経った後のこと。
その後は何事もなかったかのように陽毬の頭を撫で「おやすみ」と言い残し、部屋から出て行った。見送った彼の耳が、ほんのり赤いことに気づいてしまった時陽毬は「照れている」事実に大層驚いた。その様子を少しだけ、可愛いと思ってしまったことは内緒だ。
当然あんなことがあった後、スヤスヤと熟睡出来るわけもなく目を瞑ったり開いたりを繰り返し続けて、いつのまにかカーテンの外が明るくなり始めていた。明け方、ほんの少しだけ眠ることは出来たが寝不足なことに変わりはない。メイクで隠せる程度のものなのが幸いだ。
「…そろそろ起きないと」
パジャマの上にフリースを重ねて来て、顔を洗いに行く。戻って来てからは家族、いや朔夜に寝不足だとバレたくないとコンシーラーで隈を隠しリビングへと向かう。
リビングには母と、カーディガンを着た朔夜が朝食の準備をしていた。父と兄はまだ寝ているみたいだ。朔夜がいるとは思わなかった陽毬は動揺したが、それを悟られないように気を引き締める。
「おはよう陽毬、早いわね。もっと寝てると思ってたわ」
「休みだからってダラダラしてもいられないからね」
欠伸を噛み殺した陽毬は母から視線を隣のおかずを並べている男に移す。
「おはよう陽毬」
「…おはよう」
何事もなかったかのように挨拶をする朔夜に陽毬も普通に挨拶を返す。
(嫌味なくらいいつも通り)
逆に違う態度を取られても困るのだが、こっちは寝不足なのに元凶が平然としてるのは気に入らない。朔夜が準備に気を取られてる間に陽毬は鋭い眼差しで彼を見据える。すると朔夜はふぁーと欠伸をした。
「朔夜くん寝不足?」
「あはは、ちょっと」
(え)
母に聞かれ誤魔化すように笑う朔夜の目元を見るが隈は見られない。が、本人がそう言うのだから本当なのだろう。
寝不足なのは陽毬だと思っていたのに朔夜も?もしかして昨夜のことが尾を引いて、自分と同じで寝不足になったのか。聞いてみたかったが、母がいるため叶わなかった。
父と兄が起きて来たのは3人が朝食を食べ終わった後。帰省して初めて2人と顔を合わせた陽毬と朔夜は久しぶりだ、と挨拶した。父と兄は昨夜飲み過ぎたらしく、少しだけ顔色が悪かったが朝ご飯は食べられると言うので母と準備に取り掛かる。
「陽毬本当に帰って来たんだな」
食欲がそれほどない兄は小盛りのご飯を食べながら陽毬にそう言った。まるで陽毬が何年も帰ってこなかったような言い草だ。
「年末帰って来なかっただけでしょ、大袈裟」
「でもな、年越す時に陽毬がいないの父さん達も寂しがっていたんだぞ、特に朔夜」
ゲホッ!と隣に座る(妙に近い)朔夜が飲んでいたコーヒーを思い切り咽せた気配がした。隣を見ると昨日の夕飯時と同じで口元を押さえた朔夜が咳き込んでいるので、背中をさする。
親友がゲホゲホと咳き込んでいるのに、平然と朝食を食べ進める兄は薄らと笑いながら自分達を見ている。
「そんなに動揺すんなよ」
「…してない」
強がる朔夜だが、説得力皆無。朔夜の動揺の理由に心当たりしかない陽毬は、何も言うことが出来ずに曖昧に笑うしかなかった。
兄だけでなく父からも年末に急に帰ると言い出したことについて、不思議がられた。父も兄も陽毬にそれほど干渉することはないが、大学から続いたルーティーンを崩したことに思うことがあったようだ。
「彼氏と別れたんだ、だから年末向こうに残る理由がなくなったの」
朔夜と同じで薄々察していたようで、「そうか、まあゆっくり過ごせばいい」と父は陽毬を労ってくれた。兄は、と言うと。
「ふーん」
と意味深に朔夜に視線を投げかけている。この態度を見るに兄はもしかしたら…という疑問が生まれる。
(流石に今は聞けないな)
チビチビとコーヒーを飲み進めながらこれからどうしようか、と考えていた。




