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24話


夕食の後は陽毬が1番風呂に入る。白い入浴剤をたっぷりと入れた湯船に浸かり、今日の疲れを取るためにリラックスした。湯船で足を伸ばせるのは良い、と部屋の狭い風呂を思い出していた。




脱衣所で寝巻きを着てから自室へと戻る。時間は21時前なので父も兄も帰ってきていない。母はリビングでテレビを見ていて朔夜も客間にいるみたいだ。階段に向かう途中で母から呼び止められる。




「陽毬、朔夜くんにお風呂入ってもらって」




「はーい」




階段を上がり自室を通り過ぎ突き当たりの客間のドアをノックする。




「朔兄ーお風呂いいよ」




ドア越しに「分かったー」と声が返ってきたので、陽毬は用は済んだと部屋に戻った。





自室のベッドでスマホをいじっていると遥香、そして由美からメッセージが届いていた。どれも実家はどうか、雪は凄いのかといった他愛もないもの。2人は雪が殆ど降らない地域の出身だから雪国に興味津々だ。




ブー、と新たなメッセージが届く。




『幼馴染とはどうなの?一緒に帰省してるんでしょ』




遥香からだった。陽毬の方から誘ったと伝えた時はかなり驚いていたし、どうなってるのか気にしてるようだ。




「どうって何もないよ」




陽毬は甘え過ぎないよう自制している。




「…何もないよね」




自分に言い聞かせるような響きが含まれるのは、朔夜の言動に不可解なことがあるからだ。駅でのこと。こんな田舎で手を繋いで歩くなんて、知り合いに見られたら一瞬で噂が広まる。偶にしか帰らないとはいえ、こっちに残ってる同級生達に面白可笑しく囃し立てられる危険があるのに。朔夜はそういう噂を流されることを嫌っていたはずだが、本人は涼しい顔をしていて全く気にしてる様子がなかった。




陽毬は朔夜のことを考えているのに、自分だけ気にしてるみたいで馬鹿らしく思えてくる。チューハイ片手に勝手に不貞腐れているとドアをノックする音が聞こえた。




「…はい」




「…俺」




ドアを開けたのは朔夜だった。風呂上がりでグレーのスウェットを着て頭にタオルを被ってガシガシと髪を拭いている。




「どうしたの」




「久々に陽毬と飲みたくなって」




朔夜の右手にはビールの缶が。夕飯時にも一缶飲んでいたが、朔夜はかなり酒に強いのであれだけでは足りなかったようだ。陽毬はどうするか迷った。たった今朔夜のことを考えていたから、部屋に招き入れてもいいものか。変な態度を取ってしまったら、と不安が過る。




しかし、わざわざ来てくれたのに追い返すもの申し訳ないと陽毬は彼を部屋に招き入れることにした。ベッドの前のテーブルにクッションを引っ張り出して座ってもらう。朔夜が座った後、陽毬も愛用のクッションの上に座る。




「どうだ、久々の実家は」




「やっぱり落ち着くよー。お母さんの料理美味しいしお風呂広いし。朔兄は?」




「ああ、俺も実家に帰ってきたって実感してる」




朔夜の中では藤原家が実家扱いだ。それも仕方ない。朔夜は地元に帰っても戸塚家には少し顔を出して終わりだ。現在は離婚して母親だけが住んでるらしいが、昔と同じで殆ど居ないと聞いている。




陽毬としては藤原家が実家以上に居心地が良いと思ってくれてることが嬉しい。




「この休みはグータラするんだ」




「それいつもと変わらないだろ」




「失礼な、普段はもっとちゃんとしてるよ…多分」




「自分で言ってて自信なくなったんじゃねぇか」




クツクツ、と喉の奥で笑う朔夜に陽毬は言い返す。




「朔兄だって休みの日寝てばっかじゃん」




「そうだな」




しかし朔夜は涼しげな顔で否定せず、あっさり肯定する。陽毬のようにムキになることがない。全く揶揄いがいがないというか、陽毬が朔夜を揶揄える訳が無いというか。それでも陽毬は悪態を吐く。




「寝てばっかのくせしてスタイルいいよね」




「平日体力使ってるからな。伊達に営業やってないぞ」




「うー、デスクワークは本当に身体がガチガチになるんだよ」




最近腹周りが気になり出した。風呂でも脇腹の肉を摘み、ハーッと溜息を吐いたくらいだ。




「そんなに気になるならジム通えよ。お前の通勤圏内で良さそうなところ探してやるよ」




「うーん…考えとく」




やる気はあるが、それだけ。実行に移す行動力はない。




「まあ無理にやることでもないしな」




そんな陽毬を朔夜は馬鹿にしない。やりたいことがあればやるべきだと促すことはあれど強制はしない、昔からそうだ。だけど。




「でも、何か違うこと始めたいとも思ってるんだよ。ジムも選択肢に入れたいんだ」




清川の良い女になって見返してやれという言葉が蘇った。奴に未練はないがこのまま引き下がるのも気に入らない。「アイツ覚えてろ」という怨嗟の感情が行動力になり、尻込みしてばかりだった自分を変えるきっかけになるかもしれない。




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