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23話



実家に辿り着くと朔夜はあっさりと手を離し、何事もなかった顔をしてる。一方陽毬はモヤモヤとした、言語化し難い気持ちを抱いたままインターホンを鳴らす。中の方からパタパタ、とスリッパを履いた足音が聞こえてくる。




「はーい…あら。陽毬に朔夜くん、おかえり。早かったわね」




エプロンをつけた母がニッコリと笑顔で出迎えてくれる。




「ただいま、お母さん」




「お久しぶりです、おばさん。今年もお世話になります」




「朔夜くんたら、そんな畏まらないでよ。あなたはもう息子みたいなものなんだから。さあ、寒かったでしょ、上がって」




上機嫌の母は陽毬達を出迎えた後、料理の途中だからとリビングへ戻って行く。




「お父さんと光は明日から休みなの、それで今日は2人とも忘年会で遅くなるから夜は3人よ」




戻る前に父と兄について教えてくれる。兄とはちょくちょく連絡は取っているが飲み会に関しては初耳だ。妹相手に一々予定を言う必要もない、と判断したのだろう。




「お兄ちゃん居ないって。残念だね」




「別に残念じゃねぇよ」




「んなこと言って。お兄ちゃんに会う時嬉しそうじゃん」




図星を突かれた朔夜がそっぽを向いたので肘で小突く。朔夜は友達が少ない。小学校低学年の時は誇張なしで兄以外に友達が居なかった。その後兄経由で友達が増えたようだが、普段連絡を取り合うのは片手で数えて足りるほど。そんな朔夜は兄を1番の親友だと思っており、それは兄も同じ。




仕事経由で知り合いは増えたようだが、やはり兄以上に信頼してる人間はいないと本人の口から聞いた。それを聞いた兄は「おっっっも」と若干引いていたが、満更でもなさそうだった。実は学生時代、2人がデキてるのではという噂がまことしやかに流れたことは特に朔夜にとっては黒歴史。




仲が良すぎる、と弄りすぎると怒るので、陽毬は引き際を弁えた上で弄っている。








荷物の整理のために陽毬は2階の自室に向かう。朔夜がいつも使ってる客間も2階にあるので後に続く。




「じゃあ、あとでね」




「ああ」




部屋の前で朔夜とは別れ久しぶりに自室へ足を踏み入れた。








「陽毬がこっちで年越すって聞いた時は驚いたのよ。彼氏と何かあったのかしらと心配してたんだけど」




リビングで母の作ってくれた料理を3人で食べていた時、母が陽毬が帰ってきたことに関して触れた。予想していたことなので事実を伝える。




「何かっていうか、別れたよ」




「そうなの?結構長かったわよね」




「そうだね、大学2年からだから…今年で5年目?」




「長いわねー、なのに別れたの。喧嘩でもした?」




「喧嘩というか、向こうの心変わりだよ」




「…まあ、長く付き合ってても突然別れることは珍しくないわよ」




だから元気出しなさい、と励まされる。落ち込んでいるように見えたのだろうか。実際この話題を持ち出すとあの時のことも当然思い出すので気持ちが暗くなる。母はその辺りを見抜いているのだ。




「光は女っ気ないから、陽毬からいい知らせを聞けるんじゃないかって少し期待してたんだけど」




「気が早いよ、まだ24だし」




「結婚するのに早い遅いはないでしょ。あ、朔夜くんはどうなの」




「え、あ」




急に話題を振られた朔夜は少し戸惑っていたがすぐに口を開く。




「…俺も光と一緒で全然ですよ。ここ何年も彼女いませんし」




「そうなの?」




取っ替え引っ替えしてた頃の朔夜を知る身としては意外だった。朔夜から彼女の話を聞いた方はほぼ無い。それも告白された、付き合った、振られたと報告されるだけだ。事務報告かと思うくらい簡潔だった。それもここ暫くはない。




「そうだよ、何で意外そうなんだ」




「だってモテるでしょ」




「モテるからって彼女いるとは限らないだろ」




モテることについては否定しない。実際モテるんだろうけど。




「けど朔夜くん凄くモテるでしょ?一々断るのも大変じゃない?」




「それは、まあ」




その時のことを思い出してるのか渋い顔つきになる。この顔だ、相当アプローチを受けてるのは想像に容易い。




「まあ朔兄俳優ばりにかっこいいもんね、狙う人の気持ちも分かるよ」




「っゲホ!」




朔夜が急に咽せた。驚いた陽毬は慌てて立ち上がり彼の背中をさする。幸い気管に入ったわけではないようで、何度か咳き込んだすぐ治った。




「大丈夫?」




「…ああ」




何故か目を逸らされる。その向かいで母がニヤついているのが気になった。




「何お母さん」




「いいえ、2人とも仲良いと思っただけよ」




「そりゃ幼馴染だしね」




母は苦笑いを浮かべながら朔夜に視線を向ける。それを受けた朔夜は気まずそうに目を伏せた。







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