19話
セットしたアラームの音が部屋に響く。薄らと目を開けた陽毬はモゾモゾと寝返りを打ち、ベッドサイドテーブルに置いた目覚ましをやや乱暴に止める。
「さむ…」
今日も朝から冷え込んでおり、布団の隙間から入り込む冷気を防ぐため頭から布団を被る。少し暖かくなった。
(まだ寝れる…)
時刻は7時半、今日から会社は休みだし何の問題も…。
(…ある!今日から帰省!)
バッ、と飛び起きた陽毬はベッドから降りると部屋が底冷えしており、ぶるりと身体を震わせる。すぐさま椅子にかけたモコモコのフリースを見に纏いエアコンのスイッチを入れる。暖かい風がエアコンから出てくるが、部屋が暖まるのに時間がかかりそうだ。
昨日かなり飲んだので心配していたが、頭は痛くないし気分も悪くない。強いていうなら寝たのが遅かったせいで、やや寝不足なくらいだ。
普段ご飯を食べたりするテーブルの横に、荷物を詰め込み開いた状態のキャリーバッグが置かれている。数日前から少しずつ荷物を選別し、準備を進めていた。1週間ほど帰るが、必要以上に物を持っていくと重いキャリーバッグを引くことになる。だから本当に必要な物だけ詰めて、足りない物は向こうで購入することにしてる。
(キャリーバッグに詰めるのはこんな感じでいいかな)
寝ぼけ眼で、まだ覚醒し切ってない状態で荷物の確認を行うと顔を洗うために洗面所に向かう。その後はキッチンに移動し、手早く朝ごはんを準備して食べた。11時に朔夜が迎えに来てくれる予定なので、それまでゆったりと過ごすことが出来る。
だが、陽毬は時間ギリギリまで準備をしないという悪癖がある。土壇場で慌てることがないようにしないといけない。朔夜を待たせないようにしたい。
陽毬は昨夜のことをぼんやりと思い出す。中川から告白され、偶然会った朔夜に連れ出され、色々と話を聞いてもらった。そして一緒に帰省しよう、と誘った。
(自分から言い出すなんて珍しい)
今更ながら自分の行動に少し驚いている。勿論昔は朔夜を遊びに誘うことはあった。しかし成長するにつれ、幼馴染とはいえ男子を軽々しく誘うことが出来なくなり自然と女友達とばかり遊ぶようになる。高校生になると朔夜は上京したので、会う機会は一気に減ってしまった。それから会う時は兄を交える事が殆どだったので、大人になってから朔夜だけを誘うのはもしかしたら初めてかもしれない。
(1人で帰りたくなかったのかな)
自覚はしてなかったが陽毬は寂しいと感じ、たまたま側にいてくれた朔夜を頼ったのだ。1人で何をするのも平気な人間だったはずなのに、今は誰かに隣にいて欲しい、孤独ではないと実感したいと心の底から望んでいる。
思いの外、龍司達によって齎された傷は深かったようだ。とはいえ一過性のもので、そのうち気にならなくなるはず。
(付き合わせちゃって申し訳ないな)
いつ帰るのか、と訊ねた時変な間があった。もしかしたら別の日に帰る予定だったのに、陽毬を気落ちさせないために今日帰ると答えたのかもしれない。昔から彼は陽毬に少し甘かった。時には兄よりも。無意識に朔夜に甘えてしまうのは望ましくない。下手をすると際限なく甘える危険があった。
頼るのは今回だけにしよう、と陽毬は決めた。
化粧に着ていく服の準備、長い間部屋を空けるので軽く部屋の掃除をしているとあっという間に約束の時間の30分前になっていた。するとスマホがブー、と鳴った。
『この辺少し散策してから行く』
「そっか、こっち久しぶりだから」
そうなればいつもより少しくらい遅れるかもしれない。朔夜は時間に厳しく、外で待ち合わせするときは15分前に必ず到着し、誰かの家に行くときは数分遅れて到着するように心がけてるそう。今までの朔夜の行動を鑑みると、今回もその可能性が高い。だから陽毬は時間ギリギリまで寛ぐことに決めたのだった。
朔夜が到着したのは予想通り11時を少し過ぎた頃。黒のアウターに黒のブーツという出立ちの朔夜は陽毬のものより小さめのキャリーバッグを引いている。
「全身真っ黒だね」
「そういうお前は白いな」
陽毬は白いニットワンピースを着ていた。
「どう?最近買ったんだけど」
「ふーん、似合ってるんじゃないか」
これは朔夜なりに服装を褒めてくれている。彼は似合わないと思った時は容赦なく言う。お気に入りの服を褒められた陽毬は上機嫌で戸締りのチェックを始め、すぐ玄関に戻る。
「窓の鍵閉めたか?」
「閉めたよちゃんと」
ここから陽毬が確認したのを見ていたはずなのに、朔夜は最終確認してくる。陽毬自身そそっかしいところがあるのは認めてるが、何だか子供扱いされているみたいで複雑だ。最も子供ではないので一々反論することはせず、普通に受け流すに留める。




