表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/53

16話



朔夜は珍しく、無表情を貼り付けた端正な顔を忙しなく変化させている。




「別れた?年末帰るって言ったのは相手が旅行に行くからじゃ」




「あれは嘘」




「なんでそんな意味のない嘘を」




「…心配かけたくなかったから」




本当は別の理由もあったのだが、態々言うことではないと黙っておいた。そして別れた理由についても。




「別れたのは…向こうの心変わり?まあ最近向こうも私も忙しくて会う時間取れなかったから、こういう結果になったのは仕方ないって思ってる」




またしても心配をかけたくないという理由で嘘を重ねる。が、真っ赤な嘘ではない。当たらずとも遠からずだ。




陽毬が理由を話す時ほんの少し表情が強張る。無理に気丈に振る舞おうとしているのだが、付き合いの長い朔夜に痩せ我慢だとバレてしまいそうだ。




しかし、彼は陽毬が取り繕った「嘘」を追求することなく「そうか」と頷くと。




「…なんか食うか」




「え?」




「そういう時は食って飲んで寝て、忘れろ」




なんともぶっきらぼうな言い方だが、励ましてくれるのが分かるので陽毬はクスリと笑った。




「お酒はさっき散々飲んだから、甘いもの食べたいかも」




陽毬がそう言うと朔夜が席を立ち、何かスイーツを買ってきてくれると言う。時間が時間なのでショーケースにスイーツは殆どなかったが、確かチョコレートケーキが残っていたと記憶している。それを頼むとレジに向かい、数分もするとお盆を待って戻ってきた。




「こんな時間に食べたら太りそうだな…」




「その分消費すれば大丈夫だろ」




「うわー、普段から運動してる人は簡単に言うよね」




時折ジムに通ってる朔夜が、細身だが引き締まった体躯であることは服の上からでもなんとなく窺える。万年運動不足の陽毬の耳には痛い言葉だ。




と言いつつもフィルムを取り、フォークでケーキを一口大に切りながら口に運ぶ。ここで出されるスイーツはそこそこ値が張るが美味しい。甘さ控えめのチョコスポンジとクリームが自分の好みに合っている。




ケーキを買いに行ったことで話が中断されたが、舌の上で蕩けるチョコクリームを堪能して一息ついた陽毬は話を再開させた。




「…それでまあ、飲み会で飲み過ぎた私は彼氏に振られたことと、出来れば見返したいなーって友達と先輩に話したんだけど、近くにいた彼、中川くんが聞いてたの。そしたら成り行きで送ってもらうことになって、そしたら」




朔夜は黙って話を聞いてくれている。だが、段々彼から冷気が漂っているのは自分の気のせいだろうか。特に中川の名前を出した途端目つきが鋭くなったように見えた。




引っ掛かりを覚えるも構わず続ける。




「…自分が彼氏に立候補したいって言われたの。中川くんがそうだって全く気づかなかったから驚いて。私が固まって何も言えないままでいたら、朔兄が見た通りの結果に」




すぐに断らなかったのはいけなかったと思う。あれで彼に「押せばいけるのでは?」という隙を見せてしまった。




そして話を聞く朔夜の顔が険しさを増していき、陽毬はさっきと同じかそれ以上に困惑した。


(なんかさっきから怒ってる?)




朔夜は表情筋があまり動かず、長い付き合いでも感情を読み取ることは容易ではない。だが、それでも今まではなんとなく読み取れていたのに今の彼の考えてることが分からなかった。




もしかしたら妹分に無理に迫った中川に怒りを抱いているのかもしれない。彼への対応も極めて冷たいものだったので、それならば納得出来る。




陽毬は恐る恐る訊ねてみた。




「あの、怒ってる?」




「ん?怒ってないぞ」




「嘘だ、なんか顔つきが険しい」




「いつもこんなだろ」




「…言われてみれば」




確かにいつも眉間に皺が寄っていた気がする、と陽毬が1人納得している時一瞬だけ朔夜が不服そうに顔を顰めたのに気づかなかった。




指摘された朔夜の表情から険しさが消え、普段の仏頂面に戻る。




「…とまあ、こういうことなの」




生々しい佳奈関係を省き、今までの経緯を話し終える。合わせて紅茶を一口飲んだ朔夜がこっちを見据えた。




「お前中々大変な目に遭ってるな。彼氏と別れて後輩に迫られ…」




そう言う朔夜は少しだけ疲れたように見える陽毬を労わってくれる。その気遣いが身に染みる。




「うん、私もそう思う」




「しっかし、後輩に好かれてるのに全く気づかないあたりらしいと言うか、なんと言うか」




どことなく馬鹿にしたような響きを含む彼の言葉に思わずムッとする。




「仕方ないでしょ、中川くんそういう素振り見せなかったし」




「見せてたとしても、陽毬鈍いからどっちにしろ気づかないだろ」




痛いところを突かれ、顔を思い切り歪める。今回のことで自分が恐ろしく鈍いと身を持って知ることになった。2人のこと、中川のこと。考えると気分が重くなってくる、特に中川。陽毬は溜息をついた。




「…どーしよう、年明け中川くんと会うの気まずい」




「告白したのに返事も聞けず、どっかの男に連れて行かれたからな。今頃悔しがって泣いてるんじゃないか」




「ねぇ、その張本人」




当事者のくせに他人事みたいな態度の朔夜を思わず睨む。彼のアシストには助けられた、と思っていたがよくよく考えると状況を面倒くさくしてしまっていることに気づいた。中川はもしかしなくても、朔夜のことを誤解してしまったのだろうか、と心配になる。




側から見たら男が女を掻っ攫って行ったのだ。そういう関係だと思われるのはあり得ない話ではない。断るつもりではいたが、普通にお断りするつもりだった。あんな、覚悟やプライドを傷つける形になるなんて思わなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ