表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宗教上の理由  作者: 儀間朝啓
第三章
37/38

その六

 「よっしゃ、抜け道作戦大成功! やっぱ冬タイヤ履いてると選択肢が増えるねー」

「だよねー、だってまさかこの道を使って来るなんて思わなかったもん、地元民しか知らないと思ってたし」

あたしは東京産まれだし、両親もずっと東京在住だけど、育ったのはコノハナにある天狼神社。

 ここ何年か、年末年始はピュアピアなどのメルヘンショーのお仕事をしてたけど、今年から来年にかけては、お客様からの依頼が少なくて、あたしが出演しなくても良くなって、それならなるべく新人でお正月もお仕事したい子に譲ってあげようって決まった。

 お正月は東京で両親と過ごすか迷ったけど、あたし同様、お正月にお休みするキャストの子達が、

「このはな村に行ってみたいです!」

と言ってくれたので、みんなで行くことにした。


 今回、車を出してくれたのは池尻茜ちゃん。女子大を卒業、就職したのちも、時々キャストに参加してくれる。

 そして横浜の女子大に通うヨミちゃんこと山下小夜美ちゃんと、その高校の同級生、幾田いさみちゃん。いさみちゃんとヨミちゃんは高校までずっと同じ学校の幼馴染で、キャストになったのもヨミちゃんの紹介。女子大にだけ求人票を出してるうちの事務所には珍しい共学校の在籍者。って、あたしもか。

 三人とも、お正月に予定が無いからって、あたしの育った村に遊びに来たいと言ってくれた。嬉しい。


 峠を越えると風景は一変する。路肩には真っ白な雪が小山をつくり、時々吹く風で木々の枝から雪の粒が舞う。

 あたしの好きな風景。このはな村らしい、冬の風景。

 このはな村は東西に細長くて、その西端を国道がかすめるように通っている。その道を通って村に入るのが一般的なルートだけど、裏道で来るとダイレクトに村の中央広場へアクセスできる。

 中央広場は昔、道が放射状に伸びるランナバウトという交差点だった。今は一部を除いて車両通行止めになっているので、広場の入り口に駐車スペースがある。

 車から降りた茜ちゃんがひとこと、

「これを見なきゃね」。

茜ちゃんは一度この村に来たことがあるので、広場に塔のごとくそびえるオオシラビソの木があることを知っている。

 「わあ、きれい」

でも、この季節は初めてだから、キラキラの飾り付けを身にまとった姿は初めてだと思う。

 クリスマスツリーといえばモミの木が定番だけど、村では在来の針葉樹であるオオシラビソなどを使うのが一般的。だって、すぐそこに生えてるんだもん。


 「ノエルだねえ」

しみじみと言う茜ちゃん。

「ノエル? フランス語ですか?」

このはな村が初めてなので、クリスマスをノエルと言うことに興味を持ったヨミちゃん。あたしは、

「そうだよ、この村ではクリスマスをノエルって言うことも多いんだよ。色んな国の言葉が混じってるから」

と説明した。

 このはな村は、外国の人たちが別荘を建てることで発展してきた。そして、さまざまな言語が使われるなかで、一番しっくり来る言葉が残ったんだと思う。

 ノエルというのは、短くて言いやすいから残ったんじゃないかな?


 日にちで言えば、もうすでにノエルは終わってる。それでも飾り付けを残しているのは、クリスマスとお正月をセットでお祝いする西洋の習慣によるみたい。なんなら旧暦、中国で言う春節までおめでたムードが続くので、冬のこのはな村は、楽しいことがいっぱい。

 その代わり、冬のこのはな村は寒い! あたしは慣れてるけど、初めての人はビックリすると思う。あと雪も多い! 隣り合う村や町も寒いけど、雪の量はうちの村がなぜか飛び抜けて多い。地形とかが原因で雪雲が溜まりやすいみたい。

 中央広場から再び車に乗って、村の奥へ向かうと、どんどん雪が増えていく。奥に行けば行くほど標高が高くなるから、そのぶん寒くもなる。気温が低いから降った雪もなかなか解けないし、融雪剤も効き目が無い。消雪パイプで散水なんてしたら、凍ってしまってかえって危ない。冬用タイヤは必須。


 そして、茜ちゃんの慎重な運転のおかげで、無事、あたしの育った天狼神社のある村の最奥部に到達!

 ここが、村の中で最も古くから人が住んでいた場所で、神社から伸びる道の両側には、まばらな十数軒の家が防風と防雪のための雑木林に囲まれるように建ち、それを過ぎるとちっちゃなランナバウトと共に神社の鳥居へとたどり着く。

 参道は雪で危ないので閉鎖しているし、もともと車だと鳥居の横に伸びる林道を登って行かないと神社の社殿やおうちには到達できない。林道はふんわり積もった雪にタイヤ痕が二本伸びていて、それを外さないよう気をつけて登っていくと、社殿の斜め横に車を付けることができる。

 そのまま駐車したら、いよいよ本格的にサクサクとした雪の上に足を踏み入れる。

「ひゃっ」

車のドアを開けた途端、顔を包む冷気にみんな驚くのだけど、粉雪に埋まった足元は意外に冷たく感じないことにも気づく。そしてはじめは不思議そうに、次第に楽しそうに、繰り返し繰り返し雪の感触を確かめるようになる。


 これが、このはなの冬。寒くて雪に埋もれたセカイ。


 あたしの育ったおうちは、拝殿の前を横切らなければならない。ふかふかの雪は足で踏み固めてあるから歩くのに支障は無いけど、神様の前をあいさつ抜きで通るのは気が引けるからって、みんな手を合わせてくれる。

 こういう位置関係にしたのはウチの都合なんだけど、みんなキリスト教系の学校なのに、ぱんぱんと手を叩いてくれるのは何だかうれしい。

 って、あっ、あたしの大学もキリスト教の学校だった。

 「嬬恋」

と表札の出ている我が家は、ドイツの旧街道沿いとかにありそうな木組みの古風な西洋建築なので神社のお隣には不釣り合いかもしれない。でも別荘を建てる大工さんが普通のおうちも作ってきた歴史がそのまま受け継がれたから、これが村では普通だったりして。

 

 「おかえりー、ようこそー!」

あたし達を出迎えてくれたのは天狼神社の宮司、希和子さん。

 希和子さんは、あたしの父さんの妹。女性の宮司は珍しいかもだけど、実は昔の天狼神社は代々女系で継がれていたので、こっちの方が伝統的。

 あと、この神社は人間の女子が神様の御使いを務める決まりで、宮司の娘じゃなくても血がつながってればオッケーで、あたしはちょうど神使がいない時に産まれたから選ばれたんだって。

 神使になると、親元を離れて天狼神社に住む決まりになってるので、あたしは産まれてしばらくして、

希和子さんの元にやって来た。


 それからは両親と別々の暮らしになったけど、母さんも父さんもしょっちゅう会いに来てくれてたから寂しくはなかった。それに妹の花耶ちゃんも産まれて間もなく天狼神社にやって来た。神使の妹はその守り人としてこの世に遣わされたので、一緒に住まなければならないから。

 あたしはこの天狼神社で中学校卒業まで過ごした。だからここは東京のおうちとは別の、もうひとつのおうちみたいなもの。


——


 真耶ちゃんは、この家に来ると本当に嬉しそうな顔をする。「帰って来た」という気持ちなんだろうと思う。

 アタシはここにお邪魔するのが二度目になる。あの時は夏で、大学の同級生だった大橋と一緒だった。今は彼女は別の大学の院に進み、アタシは就職。会社勤めをしながらのアタシは、すっかりレアキャラになってしまった。

 そんなこともあって、キャストのみんなと久々に過ごしたいのもあって、この話に参加したのだ。


 希和子さんはとても気さくな人で、神職など宗教関係の偉い人のイメージとは随分とかけ離れた雰囲気を持つ。

 まだ小学生の子どもがいる年齢で、女手一人で神社を守るといえば相当なたくましさが必要にも感じるけど、この天狼神社は、およそ神道のもつ荒々しい側面が感じられない。

 「お茶とおやつをどうぞ〜」

と、自ら紅茶とお菓子をワタシ達に出してくれる希和子さん。普段着は洋服だし、アタシは嬬恋家の訪問は初めてじゃない。最初に来たときは、堅苦しい家じゃないかと心配もしていたけど、いざ来てみればとてもざっくばらんなので大いに安心した。

 でも冬は初めてなので、どんな事が起きるのか楽しみではある。初めて来た時も、変わった習慣や伝統が村のあちこちに残っていることに驚いたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ