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宗教上の理由  作者: 儀間朝啓
第三章
32/38

その一

 「……でも、大変なことっていっぱい有ったでしょう?」

「ありましたよー! えっと、キャラショーの何が大変かって言ったら、そりゃやっぱり暑さですよ」

「暑いのはそうでしょうね。でも具体的にどんな感じなんですか?」

「そうですね、分かりやすく言うとですね、汗で水溜まりが出来るんですよ、床に」

「え、そんなに?」

「そんなです、そんな」

「でも、着ぐるみと言っても、ゆるキャラみたくモコモコじゃないでしょう。多少はマシなんじゃ……」

「いやいやいや、顔って外気に触れてるのが普通じゃないですか。それをプラスチックで覆うんですよ。そりゃ暑いです……」


——


 ふぅ。ようやく自分のラジオが終わった。これでさっきまで聴いてたラジオの続きが聴ける。アプリで過去のラジオが聴けるとはいえ、安いコースだと時間制限ありだから残り時間との勝負になっちゃうんだよなぁ。

 いま聴いてる番組の鹿沢アナウンサーは、お隣の村出身のアナウンサーだから、最後まで聴いて応援しなきゃ。彼女が有名になれば地元も有名になるし。

 あ、でも、バスが来ちゃった。ホントはバスの中では知り合いの人と乗り合わせて、楽しくお喋りした方がラジオの話の種も拾えて良いんだけど。

 でも、そろそろラジオの聴取期限近づいてるから聴きながら帰らなきゃ。


——


 あ、板谷さんだ。

 私に気づいて、ないのかな。地鎮祭の帰りで宮司の服を着替えもせずにバスに乗っちゃったから目立ちまくってるんだと思うんだけど。

 イヤホン付けてるってことは、ラジオを聞き返すとかの作業をしてるのかな。そっとしておいてあげよう。


 天狼神社の宮司という名誉ある地位を賜ってから、もう何年になるだろう。

 と言っても、先祖代々受け継いできた職が私に回って来たというだけだし、今は女性の神職も珍しくはない。まして天狼神社は代々女系で受け継がれて来た歴史があるし、末の娘である私が神社を任されるのは自然なことなんだけど。

 色んなことがあった。結婚して、子どもも授かった。本来は妻が家を継ぐしきたりだけれど、夫は村役場の職員で、改姓すると手続きが面倒なので私が嬬恋の苗字を捨て、宮嵜(みやざき)と名乗り始めた。氏子の方々からは反対意見もあったけれど、臨機応変に伝統を変えていくのもまた天狼神社の伝統だからという、ややこしい理屈で何とか理解してもらえた。

 早く、夫婦別姓を法律で認めて欲しいな。


 婿入り婚で神職を受け継ぐ神社というのが、そもそも珍しいんだと思う。でもうちの神社って、ほかにも色々変わってるところがあるんだよね。

 神社で祀られる神様は、こちらとあちらの連絡係として、「神使」という動物を仕えさせている。

 でもうちでは、もともとお祀りしていた神様が隣村の神社に移られたため、神使だった狼を神様に指名した。

 そして新たな神使は、人間が務めることになった。

 動物の代わりを人間が務めるなんて! そんなことを思う人もいるかもしれないが、そういう伝統なのだから仕方ない。

 そして、私が神職についてからは、兄夫婦の子どもである嬬恋真耶がずっと神使の座を護ってくれている。


 「ピンポーン。つぎ、とまります」

天狼神社の神使は人間の、特に少女が好ましいとされている。本来なら、真耶ちゃんはいい加減に神使の地位から降りるべき年齢になっている。

「バス、停車しまーす」

ところが、真耶ちゃんの跡を継いでくれる子が産まれないので、それまでは務めを果たすと真耶ちゃんは言ってくれる。神社の人間としてはありがたいけど、叔母という立場からすれば、成人してもなお少女の務めるべき地位に居させるのは何だか悪くて……。


 「あ、希和子さんこんにちは」

「え、あ、こんにちは」

ああビックリした。板谷さんってば、さっきまで私に気づいてなかったから、こっちも存在忘れてたよ。

「お仕事ですか?」

「あー、そう、仕事。楓ちゃんはラジオ?」

「そうです」

「おつかれー」

「ありがとうございます、お疲れ様ですー」

 彼女もいい加減、ちゃん付けする年齢でも無いかなと思うんだけど、会うとつい呼んじゃうなあ、板谷さん、ではなく、楓ちゃんって。


 ああ、そっか。

 真耶ちゃんも、ホントはちゃん付けしなくていい年齢なんだよね。でも真耶ちゃんの場合、呼び方よりも神使というポジションからそろそろ解放してあげなきゃって思いの方が強いから、そっち優先だなあ。


 もっとも真耶ちゃんの場合、少女の責務から解放すべき大きな理由は、他にあるんだけど。


——


 「わー、これってもしかして、真耶パイセンですか?」

「うん、そだよ」

「よく分かるねー。見えないのに、顔」

「分かりますよー、この仕草とか、どう見たって真耶さんでしょ、ほら」

「あー、言われてみればそうだね。いかにもピアレパードっていう、キレイ可愛いカンジで」

「ですよね? この動きは、真耶さんにしか出来ないですよ」


 ピュアピアショーは、日本のどこでも集客が見込めるキラーコンテンツなので、都会から離れた場所からもお呼びが掛かる。

 今週末は北関東の観光地にあるテーマパークでのお仕事。しかも三連休のうち二日間連続なので会社の経理面からしても有り難い。

 その代わり東京からは遠く、準備時間や渋滞のリスクを考えると当日の朝出発では心もとない。そんな時は前日の夕方に東京を出発する「前乗り」を行う。

 現場であるテーマパークからそう遠くないところに旅館がある。連休初日の割にすいているのは、主にビジネス客を相手にした宿だからで、私達の他には長期宿泊らしき建設業の人たちと、こういった観光客向けではない宿を泊まり歩く趣味であろう男女カップルだけ。

 宿の人は気が利いたことに、それぞれのグループを離れた部屋に配置してくれた。だから私たちのグループが一つの部屋に集まって、お菓子や飲み物をお供に、少しばかりワイワイやっても構わないだろう。


 今年のピュアピアは九人でひとつのチームを編成している。リーダー兼MCの私、キャストとしてピュアピア五名と悪役二名。さらにPAと呼ばれる音響担当兼スタッフが付いて、出番が少ない悪役とともに、列整理などのスタッフを兼ねる。

 チーム名はリーダーの名前で決まるので、我らはチーム唐沢のメンバーとなる。もっとも、いま一番現場に出ているのは私なので、稼働しているのは大抵チーム唐沢になるんだけど。


 そして現在、チーム唐沢に一番多く貢献してくれているのが嬬恋真耶さん。土日祝日のシフトを隙間なく埋めてくれるから、キャストの割り振りをする側としてはとても有り難い。

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