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宗教上の理由  作者: 儀間朝啓
その一
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その十五

 結局、真耶さんを巻き込んで四人わちゃわちゃの入浴タイムが始まってしまった。ぼくは真耶さんが嫌いなわけでは全くないし、むしろ尊敬する先輩であり優しくて頼りになるお姉さん的存在でもある。だからといって、一緒にお風呂に入るまでの想いは持っていないというか、いくら親しい間柄でもある程度の歳になれば好んで内風呂に複数人で一緒に入ることは無いだろうと思う。


 真耶さんたちの湯上がりを待って、夕げが始まる。希和子さんと裕也さんは、食後しばらくしてからの入浴にするそうだ。

 厳寒の地このはな村。その寒さは夜の(とばり)が下りると一層厳しさを増す、という。伝聞でしか言えないのは、家全体が暖房のぬくもりに包まれているからで、風呂やトイレは東京より快適なくらい。

 ぼくの部屋着は基本スウェットの上下。東京にいる時とほぼ変わらないので服装でいられるのは、暖房のおかげ。

 もっとも、真冬でも家の中では半袖みたいな極端に暖房を効かせるライフスタイルは北国でも減ってきているみたい。あと暖房に使う石油なども貴重だったこのはな村では、昔から適度に暖めるという習慣が根付いているらしく、ある程度部屋の中でも重ね着するのが普通になっている。


 だがそれにしても、一部、家の中の服装にしては気合いが入りすぎと思われる方々も……。

 珠美ちゃんと恵美ちゃんは、家の中でもスキーウェアのパンツを履いている。腰布が高くまであり、肩ひものついたサロペット風の形。

 雪国の子ども達にとってスキーウェアは冬の普段着みたいなもので、このはな村もその例に漏れないのだとか。わんぱくな子どもは雨だろうと雪だろうと服が濡れるとか汚れるとかを気にしないはずだし、雪国ではとても理にかなっていると思う。

 だが、家の中でもそれで過ごすというのは珍しいのではないだろうか。これはさきに挙げた、この村では家全体を暖めるかわりに全体の温度は控えめにする暖房のスタイルと関係している。外よりは暖かいが薄着で過ごすには寒く、重ね着をする必要があるのだ。

 特にスキーウェアのパンツは、腰やお腹をしっかりガードして冷やさないから、子供服として重宝されるのだろう。


 とは言え、年齢的に子どもとは言いがたい花耶さんまでもが、しっかりとスキーパンツを着用しているのは果たしてどうなのだろう? 大人は別の方法で冷えない身体を保てるだろうに。

 花耶さんは身長が低くてパッと見、子どもに見えるのは確かだけど、年齢はぼくの一つ上。立派な大人だ。

 当人はそれを気にしている風を見せず、子どもっぽい服装をあえてしているところがあるし、行動にも幼い面が見えることがあって、現にこうやって珠美ちゃんや恵美ちゃんと一緒に真耶さんに甘えたりもしている。

 その真耶さんは、といえば、ちゃんと年相応の部屋着を選んでいる。そしてそのチョイスは有名ルームウェアブランドの定番である、もこもこのスタイル。このガーリーなスタイルをバッチリ着こなすのは、流石(さすが)だと思う。


 人数がこれだけ集まれば、夕食は自然と(うたげ)と化す。そしてその勢いを持続したまま、みんなで仲良くお片付けするまでが嬬恋家のルーティーンになっている。

 このリードをするのが真耶さん。後片付けは子どもと若手の役目になっていて、真耶さんはその中でトップの家事スキルを持っている。誰もが納得する人選だろうし、その期待にしっかり(こた)え、テキパキと食器をさばいていく。その姿は何とも頼もしい。

 ただ如何せん、真耶さんには弱点がある。突然、

「あうん!」

と奇妙な声を上げたかと思うと、

「やだぁ、これ、開かない! 花耶ちゃんごめん、ちょっと開けてもらっていい?」

と、バツが悪そうに、パッケージングされた食器洗い用のスポンジを花耶さんの前に差し出す。


 嬬恋真耶さん。

 まるで雑誌のグラビアから飛び出て来たような優美な顔立ちと、おしとやかな仕草。それを支える明晰な頭脳と、人並外れてすぐれた人格。

 真耶さんもまた金髪と碧眼をもち、花耶さんが血のつながった妹だということを証明してるかのよう。そしてこの二人、顔立ちや身体の特徴に同じ点が多いばかりでなく、頭脳や人格の面でも似ているところが沢山ある。どちらも典型的な優等生タイプでありながら、親しみやすさを醸し出すに足る優しさを持つ。


 ところが、真耶さんが花耶さんと決定的に異なる点がある。

 花耶さんはその小さな身体のどこに隠しているのかと思うほど、並外れた運動能力を発揮できる。現に今日もスキーを満喫してきた。

 一方で真耶さんは、その正反対。運動の類はてんで話にならないくらい不得意。

「箸より重いものは持ったことがない」

なんて慣用句を地で行くようなことを、しばしば起こす。いま悲鳴をあげたのだって、食器を洗うためのスポンジを包むパッケージが自分で開けられなかったのだ。

 ちなみにそのパッケージ、そんなに力を入れないと開けられないのか? というと、

「はい。どうぞ」

花耶さんは、あっさりとビニール袋を留めるセロハンテープをひっぺがした。そう、セロハンテープである。

 つまり。真耶さんは並ではない非力さだということになる。


 「お姉ちゃんって、子どもの時から腕力とかがずーっと変わんないよね?」

「どゆこと?」

「ん? 無いの。成長が」

「ぶー」

さっきから真耶さんにベタベタくっつきながらお手伝いしている割に、花耶さんの言葉は辛辣だ。もっとも真耶さんも、ムッとした振りをしてはいるが明らかに作った表情。はたから見れば、じゃれ合っているとしか見えない。

 だって、

「まーいーけど。お姉ちゃんの力不足は花耶がカバーするから」

「ぅー、嬉しいけど、でも花耶ちゃんとずーっと一緒にいるわけにもいかないもん」

そんなけなげなことを、サラリと言う花耶さんがいるから。


 人間、誰しも得意不得意がある。そして真耶さんには悪いけど、じっさい真耶さんの運動能力は同年代の女子より平均的にみて劣っている。

 一方で、真耶さんはそれ以外のことについては大体そつなくこなせるし、勉強も出来るし芸術のセンスもあるし、人に優しくて気がきく。

 まして料理などの家事は得にレベルが高いし、美容とかファッションにも詳しい。

 もちろん、出来ることにも色々あって、とっても得意なものもあればまあまあ出来るものや、やっとこさこなせるものもある。真耶さんの場合、勉強でも計算や図形はわりと苦労しているそうだし、機械にも苦手意識はあるみたい。

 そうした真耶さんの長所は、ひと昔前の表現で言うと、

「女子力を高めるためのスキルを多く持っている」

「いかにも女子」

となる。

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