その十四
「真姫ちゃんお待たせー! 昨日ぶりー!」
そのオーラの持ち主は、ぼくに呼びかけ、取り囲む嬬恋家の人々のあいだから手を振る。
この人こそが、嬬恋真耶さん。天狼神社ゆかりの家系に育ち、今は東京の嬬恋家で両親や妹の花耶さんと共に暮らす。そこはまさに、ぼくが居候をしているところ。
だから昨日ぶりというのもその通りで、ぼくより一日早く出発した真耶さんを見送ってもいる。東京の嬬恋家の人々は、それぞれの年内の予定が済み次第、各自このはな村の嬬恋家に向かう段取りになっていたのだ。
つまり、ぼくは昨日まで真耶さんと顔をしばしば合わせていた。なので、ほんの一日ぶりの再会であり、真耶さんのぼくに対する挨拶のようすはいささか大袈裟にも思える。ぼくは苦笑したいのを抑えて手を振り返す。
しかし、このはな村の嬬恋家の人々の真耶さんに対する歓迎の熱さといったらものすごい。先程、花耶さんが帰って来た時もそうだったが、真耶さんともなると、それに輪をかけた大騒ぎ。
「たまちゃんねー、真耶おねーちゃんと一緒に、お風呂入るー」
「入るー」
双子の珠美ちゃんと恵美ちゃんは、真耶さんにピッタリとくっついて離れないどころか、そのままお風呂まで連行しようという勢い。
「もお、二人とも、甘えグセが抜けないんだからあ」
身体の両側をがっしりホールドされた真耶さんが苦笑混じりに言う。二人とも小学校低学年なので、まだ甘えたい気持ちがあるのも分からなくはない。
しかし、
「花耶もはいるぅー」
と、さっきは甘えられる立場だったはずの花耶さんが、今度は甘える側に回って、真耶さんの背中に密着している。
さすがにコメントをためらってしまう。花耶さんは真耶さんの妹だから、甘えても良いではあるのだろうけど、仮にもぼくより一つ歳上の存在でありながら、十歳に満たないお子様をもしのぐようなベッタベタの甘えっぷりを見せていることには何とも二の句が継げないというか。
もっとも、
「花耶ちゃんもだよ? いつまでも甘えんぼさんじゃ、ダメだよ?」
と言う真耶さんの言葉に説得力がないのは、口で言うのとは裏腹に、このシチュエーションをまんざらでもなく思っているから。そしてそれを、みんなに見透かされているからなのだろう。
もちろんぼくだってそうだ。東京の家では、この光景をいつも見せつけられているので。




