その十三
山の日暮れは早い。
楓さんは花耶さんと散々イチャイチャしたのち、もう一本あとのバスで帰宅の途についた。いつのまにか雪雲は去り、山の端が紅く染まっている。
嬬恋家ではこのあたりの頃合いから入浴タイムとなる。
沖縄で暮らしてたころは、湯船に浸からずシャワーで済ませていた。周りでもそれが普通だったし、県外の人はなぜ湯船に浸かりたがるのか分からないくらいだった。
でもこちらに住み始め、沖縄の真冬よりも更に寒い東京の初冬の風に吹かれるようになると、お湯の有り難みがよく分かった。身体を温めることの大事さや心地良さも分かってきた。
東京の嬬恋家も、このはな村の嬬恋家も、ぬる目のお湯なのが嬉しい。ゆっくりと芯まで温まるし、旅の疲れを癒してもくれる。
暖房の効いた脱衣所にもすっかり慣れた(これが無いとあまりに寒くて脱衣どころではないらしい)。ゆっくり身体をふいて、大した長さもない髪を乾かしていると、またしても玄関先が騒がしくなってきた。
「おとーさん、おかえりー」
「おかえりー」
おとーさん、つまり希和子さんの夫で双子の姉妹の父、裕也さんが帰って来たのだ。子どもたちは毎日、帰宅した父親を歓喜の声で迎える。裕也さんにしてみれば嬉しくてたまらないだろう。
ところで。
客つづきの嬬恋家だが、本日最後の客人が裕也さんの車に便乗してくる予定になっている。間もなくその人も玄関を開けて登場してくれるはずだ。
ぼくもスウェットの上下を着て脱衣所を出ると、玄関に向かう。すると、いったんは落ち着いた玄関先に歓声が再び沸き上がっている。それはひときわ大きいもので、その人への歓迎の気持ちが強いと感じさせる。
ぼくが一番風呂の恩恵にあずかれたのも、いま訪れたお客様を歓迎したいがために、子どもたちが入浴を渋ったからだ。
大はしゃぎの一団はすぐさま、廊下をこちらの方へと移動し始める。その輪の中心からは、オーラとでも言おうか、人をひきつけてやまない独特の雰囲気が溢れ出ているように感じられる。




