その十一
花耶さんは学年で言うと、ぼくのひとつ上。そして、楓さんのひとつ下。花耶さんは村の中学校に通っていたため、先輩後輩の関係にあたる。
というわけで、
「あっ、か、楓センパイ、久しぶりです〜!」
「そう言う我が愛しの後輩花耶ちゃん、会いたかったよ〜」
といった興奮気味のやり取りが自然発生する。
そもそも小さな村の小さな学校だから全員が互いに顔見知りだし、しかも楓さんと花耶さんは部活も同じだった。もとより上下関係も厳しくない校風なので、二人とも学年を気にしないくらい仲が良い。
とは言え、
「ぎゅっ」
直後、お互い熱いハグを交わすのには面食らったというか、毎度面食らう。その上、
「あー! 楓おねーちゃんだけ、ずるいー!」
「ずるいー!」
珠美ちゃんと恵美ちゃんも、負けじと花耶さんに抱きついてくる。
嬬恋家と、それに関わる人々は、親愛の情を込める際の熱量がやたら高いし、スキンシップを求めることが多い。
というか、この村全体にその雰囲気は強く、日本の農村にしては珍しいと感じる。もちろんそれには理由がある。この村の歴史にそれは由来する。
だが、それについて考察する前に、
「うわあ、花耶ちゃんも雪まみれだあ」
という希和子さんの驚きの言葉に対応しなければならない。
花耶さんと楓さんが一緒になる場面は何度か見ている。もともと童顔の楓さんは実年齢より若く見られることが多いけど、花耶さんも同じく童顔なので先輩後輩がハッキリわかる。
それどころか、花耶さんは楓さんより何歳も年下にすら見えてしまう。
なぜなら花耶さんはもっと童顔だし、ついでに身長も低いから。中学生だと言われても違和感がないどころか、むしろ小学生に見えるという評判もあるくらいで。
そしてカラフルなスキーウェアが彼女をより年齢不詳にさせている。身長的にキッズモデルを着られるし、そこに付けたウサギのワッペンがいかにも子どもらしさを醸し出している。
そのうえ、雪遊びで我を忘れた子どものように全身に雪をしょっている。これでは幼さが強調されて仕方ない。
花耶さんが雪で真っ白になってしまったのは、オープン間もない村営スキー場に行って来たからだ。 ここも少雪の影響を受け、オープンはしたものの積雪量も雪質も今ひとつらしい。
「この感じだと滑りにくかったんじゃない?」
楓さんが花耶さんに続けて尋ねる。
「降りるのもひと苦労だったんじゃないかな? 上もベタ雪なん?」
「そおなの。ベタとガリが交互にくる感じ。良くないなー、今年は特に」
花耶さんは、ちょっと不満気に答える。
気温が高めで水分を多く含んだベタッとした雪や、それが昼間の気温でいったん解けて再び凍ったガリガリの雪、これらは一般的にスキーには好ましくない。
そんな中をアグレッシブに滑走すれば、まるでかき氷のような雪を蹴散らしながら滑る感じになり、その雪を自分の体にかぶったりもする。
おまけに、雪質が日なたと日陰でバラバラだったりもするので、スムーズに滑れるとは限らない。スキーの得意な花耶さんはそうそう転んだりはしないが、何度かつっかえたりの苦戦はさせられたようで、そのたびに雪のシャワーを浴びてしまったようす。
おかげで、公園で雪遊びをしていた珠美ちゃんや恵美ちゃん同様、雪まみれになってしまった。
雪だらけの身体に幼い見かけを強調されている花耶さんだが、
「花耶ちゃん、ヘルメットかぶったままだよ?」
と、雪をはたくのを手伝っていた楓さんの指摘で幼なげなルックスはさらに目立つものとなった。
「え? あっ本当だ」
花耶さんの頭上には、カラフルなスポーツ用ヘルメットが乗っかったままになっていた。
ゲレンデでは大人も子どももヘルメット、そんな意識はだんだん定着してきている。そして、このはな村ではスキー場が身近なものとして定着しているので、ヘルメットを被ったままバスに乗って家まで来ることも珍しいわけではない。
そして花耶さんの場合、小さな頭を包み込むような大きな外径をもつヘルメットによって、より子どもっぽさが強調されては、いる。
さすがに家の中でヘルメットを被っている花耶さんはジェット型のしっかりしたヘルメット
するとそこから、白銀の雪とはまた違う、キラキラとした輝きが現れる。




