その17
「閣下、到着予定海域から揚陸部隊と補給部隊が撤退したとの事です」
バンデリックは、極めて事務的に報告してきた。
とは言え、心中は複雑だったのは言うまでもない。
「はぁ……、まあ、そうでしょうね」
サラサは、溜息交じりながら、こうなる事を予測していたようだ。
敵艦隊が西に転進した時に、既にサラサだけではなく、オーマも自分達の企みが露見していた事を確信していた。
即ち、サラサ艦隊が敵後方部隊を叩く事により、敵艦隊の撤退を促すという作戦だった。
「やはり、侯爵閣下の攻撃が早すぎたのでしょうか?」
バンデリックは、作戦通りに行かなかった理由を尋ねた。
「まあ、そうでしょうね」
サラサは、残念な表情を浮かべていた。
浮かべてはいたが、内心はホッとしている所もあった。
「侯爵閣下にしては、らしからぬと言うか、そう言った行動ですな」
バンデリックは、ファザコンを目の前にちょっと言うのを躊躇った。
の為、お茶を濁したような言い方になった。
「敵もこちらの思惑通りに動いてはくれなかったという事でしょう」
サラサは、バンデリックに何言ってるのよと言った口調でそう言った。
「まあ、そうなんでしょうが……」
バンデリックは、煮え切らないと言った感じで続けたが、それ以上は言う勇気がなかった。
それを見たサラサは、呆れたような視線を送った。
サラサは、自分がオーマを庇っているようにバンデリックに思われているのを察したからだ。
「いい、バンデリック。
詳細は不明だけど、御父様は早めに仕掛けないといけない状況に陥ったので、仕掛けた。
そして、現在は、敵はほぼ間違いなく撤退を開始している。
状況から見ると、我々の戦略目標は達成されつつあるのよ」
サラサは、少しきつめに言った。
まあ、その言葉には、ファザコン故の絶対的な信頼感がなかった訳ではなさそうだったが……。
でも、まあ、その一戦を越えるというような評価ではなかった事も付け加えておく。
「あ……、ああ!!」
バンデリックは、ようやく気が付いたようだ。
今回の目的は、敵の殲滅ではなく、敵に速やかに撤退させる事だった。
その目的は、達成されつつあった。
そして、バンデリックは、自分の浅はかさに恥じ入る他なかった。
「どうせ、獲物が逃げてしまったから、あたしが残念がっているとでも思っていたのでしょう!」
サラサは、きつい口調ではあったが、ニヤけていた。
「滅相もございません」
バンデリックとしては、そう答える他なかった。
「でも、残念ながら戦う敵はまだ存在しているわよ」
サラサは、バンデリックを揶揄うように言った。
「えっ?」
バンデリックは、サラサの言葉に絶句すると共に、嫌な予感がした。
と同時に、伝令係から新たなる報告書を受け取った。
「我が艦隊の到達予定海域に、第1艦隊とシーサク艦隊が戦闘状態で移動中との事です」
バンデリックは、サラサの予言通りになったので、驚愕していた。
まあ、いつも通りの事だと言えば、いつも通りなのだが、いつも驚かされている。
「予想通りって所ね」
サラサは、今度は真面目な表情に戻っていた。




