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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
21.ワタトラ急襲

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その16

「対応が早いな」

 オーマが感心したようには言っていたが、表情は厄介さを感じさせていた。


 フランデブルグ艦隊は、西に転進しており、オーマ艦隊とはちょうど平行線の関係にあった。


 お互い奇妙すぎる陣形というか、戦い方になっているが、どちらもそれを改めようとしなかった。


「どうやら、敵もこちらの意図に感付いているようですな」

 ヤーデンの方も厄介な事になったと感じているようだ。


 ドッカーン、ドッカーン。


 それでも、互いに砲撃の応酬が続いている。


 砲撃はどちらも効果的とは行かずに、寧ろ、茶番劇のような雰囲気さえある。


 お互い遠方からの砲撃に終始し、どう考えても相手に傷を負わせられる雰囲気は微塵もなかった。


 それは、お互いの意図を正確に理解しているから成り立つものだった。


 ここで、リスクを負って、相手を殲滅に掛かって成功しても、あまり意味がない事をよく分かっているようだ。


 なので、こんな状態になっているのだろう。


 そして、砲撃を止めないのは、相手が負うリスクの低減に繋がるからである。


 ノーリスクなら、確実に相手を殲滅しに掛かるだろう。


 ……。


 沈黙が流れ、砲撃音しか聞こえなくなっていた。


 ドッカーン、ドッカーン。


 オーマは新たな命令を下す理由がなく、ヤーデンは特に言う事がなかったからだ。




「これが名将の戦い方なのか?」

 伯爵は、無表情にそう呟いた。


 その為、感心しているのか、呆れているのか、分からなかった。


 同じ台詞は何度も言っているが、その度に意味合いが異なってくるので不思議である。


「……」

 参謀長のサズーは、参謀長らしく、何か言わねばならないと思ったが、何も言葉が浮かばなかった。


 違うとツッコミを入れるのは、間違っている。


 入れたいのはやまやまなのだが、現に、そう言った戦いをオーマが選択していた。


 じゃあ、優れた戦いだと褒めるのは?


 それも明らかに違っていた。


 両艦隊は、互いに平行線の関係を維持し、効果的とは思えない砲撃戦を繰り広げていた。


 緊張感がなく、面白みのない戦いだと傍目からは見える。


 ただ、やっている当人達は、面白みがないかも知れないが、緊張感がない訳ではなかった。


 両指揮官は、きちんと艦隊を掌握しており、今何をやっているかを知らしめていた。


 無論、両指揮官は多くを語っている訳ではないが、手を抜いた途端、付け込まれると言う緊張感を醸し出していた。


 それ故に、作戦を実行している水兵達も緊張感があった。


 ドッカーン、ドッカーン!


「……か?」

 砲撃音が鳴り響く中、伯爵はその様子を見ながら何か聞いてきた。


 これは砲撃音に完全に掻き消されていた。


「は?閣下、何か、仰いましたか?」

 サズーは、慌てて聞き返した。


 伯爵の態度も雰囲気も全く変わりなかったので、何か重要な事を言った訳ではないようだ。


 とは言え、そこは、参謀長として、逆にそれが何か重要な事を聞いてきたのではないかと思った。


 なので、聞き逃したので、焦っていた。


「揚陸部隊と補給部隊への司令は徹底しているのか?」

 伯爵は、何事もなかったように、質問を繰り返した。


 サズーは、やはり自分の直感は正しかったと感じた。


 かなり、重要なことを言っていた。


 なので、イーグの方へ視線を向けた。


「はっ、万事、ご命令通り進んでおります」

 イーグは姿勢を正してから、そう報告した。


「うむ」

 伯爵は、ゆっくりと頷いたが、依然として無表情だった。


 その反応に、サズーとイーグは顔を見合わせてしまった。


 何か、不味い事が進行しているのかと疑ったからだ。


「ワタトラ伯の艦隊は、捕捉できたのか?」

 伯爵は、次の質問をした。


 それで、サズーとイーグの合点が行った。


 捕捉できていない敵程、厄介なものはない。


「いえ、現在の所、捕捉は出来ていません」

 イーグは、伯爵の質問にそう答えた。


「そうか……」

 伯爵は、今度はあからさまに落胆した。


 その態度に、サズーとイーグはまた顔を見合わせる他なかった。


「しかし、閣下、現在の所、作戦は上手く行っているのでは?」

 サズーは、妙な雰囲気になりかけていたので、慌て気味で、質問をしてみた。


「たぶんな……」

 伯爵は、興味なさげにそう答えた。


 ある意味、これは伯爵の心配性から来るものであった。


「!!!」

「!!!」

 サズーもイーグも伯爵の言葉に絶句してしまった。


 一気に不安感に駆られてしまった。


「それより、ワタトラ伯の艦隊が捕捉できていないことは不安定要素だ。

 その要素が、一瞬にして、事態を悪化させる事もある」

 伯爵は、自分が今、何を気にしているかを口にした。


 勿論、2人が言い知れぬ不安感に駆られているから、それを取り除いてやろうという気持ちからではなかった。


 ただ、自分の都合を述べただけだった。


「そうならないように、気を一層引き締めます」

 サズーは、思わず直立不動になってしまった。


 イーグも同様に、直立不動になっていた。


 こうして、伯爵の心配性から、艦隊は緊張感をより強いられるようになった。


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