その14
「ルディラン艦隊、転針」
イーグがそう報告してきた。
とは言え、伯爵も見ているのでそれは承知していた。
問題は、何で転針したかだ。
「中央を攻撃しようとすると、数の差から包囲されると思ったのでしょうか?」
サズーは、指揮官の疑念にいち早く反応した。
「それはそうなんだが……」
伯爵は、気怠い表情でそう言った。
中央を攻撃されれば、それを受けながら、左右両翼を伸ばせば、簡単に包囲下に置ける。
それぐらいは、すぐに分かることだ。
ただ、中央を攻撃するメリットは、旗艦周辺に攻撃が集中できる。
それによって、指揮系統を圧迫することが出来る。
「何か、御懸念でも?」
サズーは、一応尋ねた。
この作戦が始まってから、指揮官はずうっと懸念しっぱなしである。
だが、懸念とは裏腹に、作戦行動は上手く行っていた。
なので、特に気に留める訳ではなかった。
「今まで静観してきたのに、攻撃を仕掛けてきたのだ。
何か、意図があるに違いない」
伯爵は、いつも通りの心配そうな表情になっていた。
サズーは、その表情を見て、いつものかと思う事した。
だが、溜息をつこうとした瞬間、思い直した。
「敵に動きがあると言う事ですか?」
サズーは、改めて尋ね直した。
「動きは既に現れた。
問題は、これが何を意味しているかという事だ」
伯爵は、考え込むように言った。
「確かに……」
サズーは、伯爵に言われて、間抜けな質問をしたと思った。
「そうか!」
伯爵は、サズーがちょっと恥じているのを他所に、思い付いたようだ。
その横で、今度のサズーはちょっと驚いていた。
「全艦、右舷回頭。
現海域から離脱する」
伯爵は、すぐに命令を下した。
副官のイーグは敬礼と共に、それを実行すべく、伝令係に指示を出した。
「恐らく、ワタトラ伯がこちらに接近してきているのだろう」
伯爵は、サズーに聞かれる前に、そう言った。
「なんですと、それでは挟撃の危険性があります」
サズーは、そう言いながら、伯爵の命令が理に適っていることに気が付いた。
「それはまだマシな方だな」
伯爵は、悟ったように言った。




