その13
「シーサク艦隊、発砲!」
ヘンデリックが、そう報告してきた。
ヒューン、バシャバシャ!!
撃たれた砲弾は、オーマ艦隊の前方に降り注いだ。
オーマは、それを身動ぎもせずに見ていた。
「射程外ですな。
随分と遠くから撃ってきましたが、クライセン旗艦艦隊程の技量ではないですな」
ヤーデンは、眉をひそめていた。
かなりの距離から撃ってきたので、もしやと思っていたのだろう。
とは言え、大いに安心したのは言うまでもない。
「恐らく牽制だろうな。
それにしても、対応が早いな」
オーマの方は、フランデブルグ艦隊を観察しながらそう言った。
感心していると共に、厄介さを感じているようだった。
これまでの戦い振りを見ていると、侮っていい相手ではない。
数の利を活かした戦い方、ブレない戦略目標。
これらを見事に体現した戦い振りだった。
そして、今回の牽制と言える砲撃。
全て理に適っている行動である。
「!!!」
ヤーデンの方は、意外そうにオーマを見た。
思っていた反応とは違っていたからだ。
先程述べたとおり、彼はエリオを基準に置いてしまっているのだろう。
散々な謂れ方をしているエリオだが、敵から見ると恐怖その物であるという良い証左だった。
「如何なされますか?
敵との交戦経験はほとんどありません。
どんな戦法を仕掛けてくるか、分かりませんな」
ヤーデンは、今後の対応をオーマに尋ねた。
そして、ここで、オーマがどういった命令を下すかに興味があった。
相手は、愚将ではないとオーマは判断したとヤーデンは感じた。
どのくらいの器かは分からないが、警戒すべきだと感じている。
そうなると、次はどうするといった感じになるのだろう。
「敵艦隊の右翼方向に転針」
オーマはそう指示を出した。
「艦隊、左舷へ転針。
取り舵!」
ヘンデリックが、オーマの命令を伝令係に伝えた。
ヤーデンは、再び意外そうな表情になった。
先程までの態度だと、もっと警戒するかと思っていたからだ。
とは言え、この転針は当初よりやや早いが、事前の作戦通りだった。
そして、フランデブルグ艦隊の進路と言うより、退路する動きを妨害する動きであった。




