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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
21.ワタトラ急襲

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その9

 シーサク艦隊は、ワタトラ湾に侵入し、都市ワタトラへと接近していた。


「全艦、攻撃始め!」

 フランデブルグ伯爵が命令を下した。


「全艦、攻撃始め!」

 副官のイーグが復唱した。


 ドッカーン、ドッカーン!!


 轟音共に、砲撃が始まった。


「全艦に通達。

 敵の陸砲の方が、射程が長い。

 無理に突っ込むな。

 慎重に行動せよ」

 伯爵は、すぐに次の指示を出した。


 イーグは、敬礼をしてから、伝令係へ指示を飛ばしていた。


「……」

 傍らにいた参謀長のサズーは、無言だった。


 正確に言うと、慎重すぎると言いそうになった。


 だが、声を出す前に、指揮官の指示は的確であると感じたので、慌てて口を噤んでいた。


 伯爵の性格から慎重に慎重を重ねて、指示を出すのは予想していた。


 なので、度が過ぎる場合が多々ある。


 だが、今回の場合は、その慎重さは正しい。


 艦隊の位置取りは自由に出来るので、それを活かさない手はないからだ。


 ドッカーン、ドッカーン!!


 そういう思惑の中、砲撃の応酬が続いた。


「うーん……」

 伯爵は、困ったような微妙な表情を浮かべていた。


「如何なされましたか?」

 サズーは、何やら嫌な予感がしたので、尋ねてみた。


「意外と手間取るのだな」

 伯爵は、呟くようにそう言った。


「!!!」

 サズーは、思わぬ言葉を聞いて驚いて、固まってしまった。


 だが、すぐに、何やら不穏な空気が漂ってくるのではないかと身構えた。


 戦闘前と戦闘中では性格ががらりと変わるという事は、意外に多いからだ。


「……」

 伯爵は、サズーの予想に反して、それ以上は何も言わなかった。


 いや、こちらの方が、いつもの伯爵だった。


「あのぉ、閣下、攻撃を強化する為に、前進なさりますか?」

 サズーは、恐る恐るそう聞いてみた。


 この意見は、あまりいいものではないと思いながらも、黙ってしまった伯爵の考えを把握しておく必要があったからだ。


「いや、そんな事はしない。

 不利な状況に陥っている訳ではないので、現状維持だ」

 伯爵は、何を言っているんだという表情で、あっさりとそう答えた。


「ほっ……」

 サズーは、思わず、安堵の溜息が出てしまった。


 戦闘中も性格が変わる訳ではなく、慎重さが前面に出ていたからだった。


 名将と呼ばれる要素の一つとして、共通している点と言えば、味方の損害を気にする事だ。


 戦果は無論大事な物なのだが、味方の損害が増える事により、名将は、作戦の遂行が困難になる事を極端に嫌う。


 その一端が垣間見られるような伯爵の行動だった。


 シーサク艦隊は、一門一門順々に潰していき、ゆっくりと進軍していた。


 あまりの遅さに、艦隊自体が焦れるかと思われた。


 が、伯爵だから仕方がないと思っているのか、全く指揮系統が乱れる事はなかった。


 こうなると、ワタトラ守備隊側も、まともに戦う他なく、砲門数が物を言ってくる。


 なので、徐々にワタトラ守備隊が押されている展開である。


「閣下、ルディラン艦隊が接近中との事です」

 イーグが、事態の急変を告げる報告をしてきた。


「来てしまったか……」

 伯爵は、大きな溜息をついた。


「!!!」

 サズーの方は、伯爵の態度にえーと言った感じだったが、何とか口に出す事は控えられた。


 何せ、来るのは分かっていた事なのだから、サズーの反応は当然であり、参謀長としての反応も忠臣としては問題なかった。


「艦隊を湾内から退避」

 伯爵は、すぐに事前の打ち合わせ通りの命令を下した。


「艦隊、180度回頭。

 湾内から一旦出よ」

 イーグが、すぐに伝令係に指示を出した。


 それをサズーは、苦々しく見ていた。


 事前の打ち合わせの時に、具申したのだが、これはあまりにも慎重すぎるように感じられたからだ。


 数がこちらが倍以上。


 半数の敵を抑えつつ、地上攻撃は十分に出来る兵力を有しているからだった。


 とは言え、そこは伯爵の性格上、譲るはずもなく、そのように決定されていた。


 サズーがそう感じている間に、艦隊は元来た道を逆進し始めた。


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