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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
14.リーラン王国沖 エリオ艦隊vsサラサ艦隊

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その9

「やはり、付いて来ましたね」

 マイルスターはいつもの和やかな口調で、シャルスの報告にそう反応した。


 と同時に、エリオに対して、明らかにマウントを取っており、揶揄いも含まれていたのは明白だった。


「……」

 エリオは、なるべく反応しないようにしていた。


 昨夜、新月で、真っ暗な中、艦隊を移動させた。


 周辺地形を熟知しているエリオ艦隊のなせる技だったが、それにも限界があった。


 普通なら、翌晩頑張ったと褒められてもいい所だが、サラサ艦隊から目の届く範囲では意味がなかった。


 とは言え、サラサ艦隊から見て、西側に位置していたのを、東側に変わっただけでも凄い筈である。


 目的地のティセルには近付いたのだから……。


 でも、まあ、何度も言うが、それでは意味がないのだが……。


 そう言った行動をする前に、マイルスターからそれは意味のない事だと、アドバイスを受けていた。


 そして、その通りになった。


 更に、悪い事に、サラサ艦隊は急進し、エリオ艦隊の頭を抑えていた。


 それにより、海岸線を行く他、手がなくなった。


 そして、自由に動けないエリオ艦隊に対して、攻勢を仕掛ける事もしなかった。


 サラサ艦隊が近付いて、砲撃戦になれば、浅瀬を利用して、有利に事が運ぶ。


 座礁を誘ったり、位置を入れ替えて、サラサ艦隊を海岸線に追い詰めるなどして、いくらでもやりようがあった。


 しかし、そんな事はサラサはよく分かっていた。


 なので、そんな見え透いた手には乗らずに、最初の接触した時と同様に、距離を取りつつ、安全地帯を航行していた。


(流石に、冷静沈着な指揮官だな……。

 こりゃ、厄介だ……)

 エリオはやれやれ感満載だった。


 とは言え、このまま推移すれば、少なくとも砲撃戦は避けられる。


 その点では、すっかり安心していた。


 と同時に、新月を利用して、東に移動した事が効いてきていた。


「敵は閣下が挑発なさったと思って、追ってきていますが、如何なさいますか?」

 マイルスターは和やかな口調で、マウントを取っていた。


 どちらかと言うと、マイルスターの認識の方が正しいと思われる。


 そう、動いた事で、挑発されたといきり立っているサラサを想像しているマイルスターの方が!


「如何も何も、このまま推移する他ないだろう」

 エリオは、いい加減、マイルスターを無視する事が出来なくなってしまった。


 敵より味方の方がムカつくといった感じだった。


 エリオ艦隊は、頭を抑えられてはいたが、前日の睨み合いで、動けずという状況からは脱していた。


 ゆっくりだが、ティセルに向けて、航行を続けていられた。


 その点では、最善な状況ではないが、目的は何とか達成されそうだった。


「やはり、我慢できなかったのですね」

 マイルスターはどうしてこうなったかの理由をそのものズバリと言った。


「うるさい!」

 エリオは珍しく、論理的思考を放棄したようだ。


 それを見たマイルスターが、やれやれ感満載になった。


 でも、まあ、確実に一本取ったと行った感じでもある。


(まあ、たまには年相応の行動をするのも良いでしょう……)

 マイルスターはやれやれと感じながらも、少し微笑ましく思っていた。


 今回は、困難な方を選択しても、戦闘にはなりにくいと判断した事も関係していた。


 尤も、そんなリスクがある場合、エリオもそちらを選択しない事は、マイルスターにはちゃんと分かっていた。


 無難な方の選択としては、睨み合いに陥った時に、さっさと王都に帰還するというものだった。


 そうすれば、何の困難もなく、すんなりと王都に帰還できただろう。


 ただ、そうなると、エリオの欲望が満たせなくなる。


 エリオに欲望があるのかと言われると、実はない訳ではなかったという事が、今回の行動で示されたと言う事になる。


 その為に、ティセルに着くまで、長い間、神経戦を繰り広げる選択をしたのだった。


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