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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
21.ワタトラ急襲

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その8

「敵艦隊、ワタトラへ向かって進軍中」

 ヘンデリックが、そう報告してきた。


「全軍か?」

 ヤーデンは、すかざず確認した。


「揚陸部隊や後方支援の部隊以外は、全てのようです」

 ヘンデリックは、ヤーデンの質問にそう答えた。


「厄介だな」

 オーマは、腕組みをしながら唸るように言った。


「こちらを誘き出す罠と見えますな」

 ヤーデンは、状況をそう分析した。


「まあ、そうなのかも知れないが、敵にして見れば、この海域にいる事自体が陽動作戦の一環だからな。

 それを踏まえた上で、戦力を分散させない事にしたのだろう」

 オーマは、ヤーデンの分析に更に付け加えた。


「確かに、そう考えると、本当に厄介な相手ですな。

 シーサク王国の海軍はそれ程実戦経験がない筈ですが、侮る訳には行かないようですな」

 ヤーデンは、オーマの分析に納得した。


「経験が少ないのは、我が艦隊も一緒だな」

 オーマは殊勝な表情でそう言った。


「……」

 ヤーデンは、思わぬ言葉に絶句した。


 当代一の提督と呼ばれている人物から出る言葉ではなかったからだ。


「考えてみろ、帝国やリーラン王国は、数百年に渡って海戦のノウハウが受け継がれている。

 それに加えて、我らは手伝い戦ばかり。

 その差は開く一方だ」

 オーマは、意外にも愚痴をこぼしていた。


「……」

 ヤーデンは、まだ絶句したままだった。


 オーマから聞かされる言葉が、思ってみないものだったからだった。


(そこまで、卑屈にならなくても……)

 ヤーデンは、そう感じていた。


 とは言え、オーマは別に卑屈になっていた訳ではなかった。


 この辺は、エリオとは違う大人の漢である。


 冷静に自分達の置かれている立場を見定めているといった感じだった。


 まあ、言うまでもないのだが、第3次アラリオン海海戦がトラウマになっているのだろう。


「閣下、ご命令を」

 妙な方向に話が進んでしまっていたので、ヘンデリックは、副官として修正を図った。


 状況の確認をしているとは言え、今は、敵に対して、どう動くかの方が重要である。


「そうだな、まずは、敵艦隊の行動に対応しなくてはな」

 オーマはそう言うと、一呼吸置いた。


 ヤーデンとヘンデリックは、それをじっと見守っていた。


「敵艦隊を追尾する。

 全艦、ワタトラへ進路を取れ!」

 オーマは、そう決断を下した。


「了解しました」

 ヘンデリックは、そう言うと、敬礼して、伝令係へ指示を下し始めた。


「よろしいのですか?

 罠の存在も考えるべきでは?」

 ヤーデンは、すぐに反対しなかったのは、積極的な反対と言うより、確認作業だったからだ。


「それも考えられるが、ここにいても、仕方がない。

 罠かも知れないが、後背を討てるチャンスでもある」

 オーマは、ヤーデンの確認作業にそう答えた。


「了解であります」

 ヤーデンは、今度は期待通りの答えが返ってきたようだった。


「それにしても、我が艦隊が本格的な海戦を行うのは、第3次アラリオン海戦以来だな」

 オーマは、溜息交じりにそう言った。


「そうですな……」

 ヤーデンは、必死に記憶を辿ったが、その通りだったので、そう答えるしかなかった。


「それだけ、サラサに頼り切っていたと言う事か……」

 オーマは、今度はしみじみと言った。


「そのようですな」

 ヤーデンは、今度は娘自慢が始まったと思い、苦笑した。


「そのサラサは大丈夫だろうか?」

 オーマは、ヤーデンの予想に反して、娘の心配をしていた。


「何か、御懸念が?」

 ヤーデンは驚いて、質問した。


「相手は、あのクライセン公だしな」

 オーマは、ちょっと歯切れの悪い言い方をした。


「力量的には、互角と思いますが……」

 ヤーデンは、怪訝そうな表情を浮かべてそう言った。


「サラサもクライセン公もまだ若いからな。

 思わぬ所で、火が付いて、激烈な戦いにならなければ、いいが……」

 オーマは、自分が思っている唯一の懸念を述べた。


 サラサとエリオの戦いは、ある意味激烈な戦いにはなった。


 だが、オーマが想像しているのとは違っていた。


 後に報告を受けた時に、オーマはしばらく言葉が出てこなかったのだった。


「閣下……」

 ヤーデンも、オーマの懸念が伝染したのか、不安になっていた。


 その時に、艦隊がゆっくりと動き始めた。


「でも、まあ、そんなことより、まずは自分達の仕事をしないといけないな」

 オーマはそう言うと、目の前の仕事に集中する事にした。


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