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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
21.ワタトラ急襲

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その7

「しかし、陽動ならば、些か大袈裟ではないのだろうか?」

 伯爵は、またサズーの気持ちにはお構いなしといった感じで、質問を重ねた。


 サズーは、微妙な所で一息付けなかった。


 なので、驚くと共に、質問の内容を改めて考えると、苦笑する他なかった。


 こういった性格の人物は、意外とねちっこいと気付かされる場面だった。


「陽動とは言っても、真剣にやらねば意味がないと思われます」

 サズーは、取りあえず、指揮官の考えを正すべく、そう言った。


 とは言え、それが適うのかどうかは、大いに疑問に思っていた。


「確かにそうだ」

 伯爵は、サズーの思惑とは裏腹に、予想外に簡単に納得してしまった。


 サズーは、一瞬ポカーンとなりそうだったが、これは好機だと思い直す事にした。


「公爵閣下も、可能ならば、ワタトラを落としても構わないと仰っておりました」

 サズーは、こことぞばかりに、伯爵を煽ろうとした。


「……」

 伯爵の方は、このサズーの言葉に対して、あからさまに嫌な顔をして、黙ってしまった。


 この表情からすると、サズーの思惑は完全に外れてしまった。


「……」

 なので、サズーの方も唖然として、沈黙せざるを得なかった。


「人間は、きちんと力量差というものを認識しなくてはならない」

 伯爵は再び眉間にしわを寄せながら言った。


「はぁ……」

 サズーは、些か面倒な事になったと思っている。


「ルディラン侯との力量差は明白だ」

 伯爵は、サズーに構わずにそう言い切った。


「で……」

 サズーは、フォローを入れようとしたが、伯爵に手で制されたので、黙った。


「別に気を遣わなくてもいい。

 こういう時は、事実をきちんと認識しなくてはならない」

 伯爵は、オーマを高く評価している様子だった。


「閣下、仮にそうだとしても、こちらは、相手の倍の戦力です。

 十分に戦えると思えるのですが……」

 サズーは、どう考えてもこちらの方が有利な状況なので、戸惑っていた。


 また、その為に、バーグ公爵は倍の戦力を宛がってきたのだという事も分かっているつもりだった。


「ルディラン艦隊は、我が艦隊を狭い海域に誘い込もうとしている。

 恐らく、数の有利を活かす事は出来ないだろう。

 手間取っている間に、ワタトラ伯が戻ってくる恐れがある。

 そうなれば、挟撃の危険に陥る」

 伯爵は、冷静に分析していた。


 サズーは、確かにと思いながらも、ネガティブ思考の持ち主の言う事を、鵜呑みには出来ないでいた。


「それならば、いっその事、ワタトラを攻撃するのは如何でしょうか?」

 サズーは、代案を示してみた。


「足の遅い揚陸部隊と一緒に行動する事により、苦戦が見込まれる。

 そして、その間に、ワタトラ伯が戻ってきたら、先に述べた以上に悲惨な結果になるだろう」

 伯爵は、自分で分析していて、身震いしていた。


 その様子を見て、サズーは、頭を抱えたくなった。


 叩きのめされる場面を想像して、怯えている事は明白だったからだ。


 なので、伯爵は、戦いには向いていないと実感させられた。


 と共に、戦いには向いていないのに、分析は的確だとも思っていた。


「ならば、我が艦隊だけで、ワタトラを急襲するのはどうでしょうか?」

 サズーは、次々と提案する羽目になっていた。


「いや、それよりもこの海域に留まるのが一番いい。

 ルディラン侯、ワタトラ伯の両艦隊を引き付ける事が出来るし、揚陸部隊を見せ付ける事により、敵の陸上兵力も引き付ける事が出来る。

 そうすれば、任務が達成されるだろう」

 伯爵は、今度はどや顔で言い切った。


「閣下……」

 サズーは、伯爵の言っている事を理解できていたが、納得は出来ないでいた。


 だが、どう言葉を繋いだらいいか、分からなかった。


 只々、呆れる他なかった。


(この人は、楽をしたいだけなのでは……)

 サズーは、そう疑念を持ったが、口には出さなかった。


 立場を悪くすると言うより、真実だったら目も当てられないと感じたからだった。


「分かっている、それは今後の士気に関わる事だから、選択肢から排除しなくてはならないのだろう」

 伯爵は、眉間にしわを寄せながら、自己完結していた。


 空気が読めないようで、きちんと読んでいるようだった。


 楽して功績は挙げたいのは確かだが、現実と折り合いを付ける事も忘れない性格と言った所か……。


「我が艦隊だけで、ワタトラを急襲する。

 揚陸部隊は、後方に下がっているように」

 伯爵は、そう命令を下した。


 サズーが、ホッとしているのは言うまでもなかった。


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