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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
21.ワタトラ急襲

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その6

 シーサク王国の海軍提督フランデブルグ伯爵。


 今回、遠征艦隊の司令官を任命されていた。


「これ程の大作戦、何故、私が選ばれたのだろうか?」

 フランデブルグ伯爵は、洋上でそう呟いた。


 伯爵は、青年期から中年期に差し掛かってはいた。


 体型は、やや痩せ気味だったが、均整が取れていると言っていい程だった。


 その為、姿形は品のいい貴族そのものだった。


 だが、額には歳より多くのしわが刻み込まれていた。


 更に面白い事に、ぼやいているようでニヤけていた。


 しわのせいで、ニヤけているようで、何かを憂いている感がある。


 この辺は、伯爵の性格を表しているのだろう。


「無茶なさらないからではないでしょうか?」

 艦隊参謀長のサズーが、呆れながらも当たり障りの無いようにそう言った。


 本来ならば、これ程の大作戦。


 武人の誉れと思う所なのだが、自分の上官はそうは思わない人物のようだった。


 いや、ニヤけている時点で、与えられた地位には満足しているのだろうと感じてはいた。


 が、それ程単純な人間ではないのだろう。


 面倒さもきっちりと理解しているという所か……。


「そうなると、ワタトラを落とさなくていいという事だろうか?」

 伯爵は、安心したような困ったような表情をしていた。


「総司令官閣下のバーグ公爵からは、可能ならば落とせとの命令でしたが、無理はしなくていいとも仰っておりました」

 サズーが、出撃に当たっての、総司令官の訓示を思い出しながらそう言った。


 伯爵は、参謀長と同じ場所にいたので、同じ訓示を聞いていた。


 そして、参謀長の言葉で、やはり、自分の解釈が間違っていない事に安心した。


 だが、安心してばかりいられなかった。


「その辺が、いつも微妙だと思う。

 どうして、その辺の指示が明確ではないのだろうか?」

 伯爵は、どちらとも取れる命令を受けたので、困っていたのだった。


(大体、これにより、後で文句を言われるのではないか……?)

 この懸念は、口に出すと不味いので、伯爵は心の中に留めておいた。


 不味いと感じたのは、言霊となって返ってくると感じているからだった。


 とは言え、やはり、意外と目敏い性格であるようだ。


 だが、地位や役職には弱いのだろう。


 どうしても、ニヤけてしまう。


「現場での裁量を完全に任されたと考えていいのでは?」

 サズーは、指揮官をなるべく前向きにさせようと誘導しているようだった。


「とは言え、ここで、撤退する訳には行かないのだろ?」

 伯爵は、とんでもない事を口にした。


 戦いを避けようとしている姿勢からは、エリオと同じ匂いを感じられる。


 ただ、戦略という意味では、それを全く理解していない意見である事は間違いが無かった。


 いや、伯爵自身は、理解はしているのだろう。


 だが、なるべく楽をして、功績を挙げたいという思いが隠せないでいた。


「まあ、それは行きませんな……」

 サズーは、呆れながらも努めて冷静にそう答えた。


「それならば、完全に任されているとは言い難いな……」

 伯爵は、眉間にしわをより深くしながらそう言った。


「……」

 サズーは、何も言えなくなってしまった。


「我々は陽動で間違いがないのだな?」

 伯爵は、サズーの気持ちにはお構いなしで、質問をした。


「はい、それは間違いがないと思われます」

 サズーは、伯爵の質問に探るような感じで答えた。


 次は、どんな言葉が飛び出すか、予想し難いからだった。


「うむ……」

 伯爵は、サズーの予想に反して、頷いただけだった。


 それを見たサズーは、一息付けたと思った。


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