その5
「海戦経験はそう多くはないと聞いている」
オーマは、ヤーデンの説明に対して、そう付け加えた。
「そのようですな。
ただ、近年、兵力増強が行われています。
今回、出撃してきたのは、兵力が整ったからでしょう」
ヤーデンは、更に説明を行った。
「うむ……」
オーマは、ヤーデンの説明を聞き終えると、どうも納得できないという表情をしていた。
ヤーデンは、思わず、ヘンデリックと顔を見合わせてしまった。
こういう時は、あまり良くない状況であるからだ。
「戦略上、ここに兵力を送り込む必要があるのか?」
オーマは、いきなり本質を切り出した。
「えっ……」
ヤーデンは思わず、絶句してしまった。
現に送り込んでいるので、今更感がある。
だが、改めて言われると、やはり、敵の意図を考えざるを得なかった。
戦略を考えるならば、当然、明確な意図がある筈である。
その意図がよく分からないのである。
……。
オーマとヤーデンが顔を見合わせてしまったので、沈黙が訪れてしまった。
「陽動作戦である事は明らかでは?」
僭越だと思いながら、仕方がなく、ヘンデリックがそう口を開いた。
「まあ、そうなんだが、あまりにも場違いな所を攻撃してきているなと」
オーマは、大陸地図を持ち出しながらそう言った。
地図を見ると、一目瞭然なのだが、ラロスゼンロ、そして、今後、攻撃してくるだろうマグロットとは距離が離れすぎていた。
それでも、ラロスゼンロとマグロットの同時攻撃は整合性は取れているように感じられる。
しかし、兵力分散が狙いにしても、ワタトラは離れすぎていた。
「艦隊で攻撃できる場所で、ワタトラが一番近かったからではないでしょうか?」
ヘンデリックは、何を悩んでいるんだといった表情でそう言った。
「なっ……」
ヤーデンは、再び絶句した。
無論、反論しようとしたのだが、反論のしようが無い事に気が付いたからだ。
「……」
オーマも思わず固まっていた。
何だか、話が進まない。
「それに、今回は相手の方も実力試しを兼ねているのではないでしょうか?」
ヘンデリックは、更に僭越だと思いながらも、2人が黙ってしまったので、話を続けた。
再び、オーマとヤーデンが顔を見合わせてしまった。
最初はお互いに納得できないという表情だった。
が、お互いのその表情を見ている内に、納得が行ったようだった。
「ふぅ……、言われてみれば、そうかも知れないな……」
オーマは納得したのか、自分の懸念が馬鹿馬鹿しくなっていた。
ただ、やはり、敵の動きの不気味さは消えないではいた。
丸抜けた話のようだが、やり方が徹底していると、感じたからだ。




