その18
ぶん、ぶん、ぶん、ざっざー……。
4人の男がリ・リラに向かって行った。
だが、3人の攻撃は難なくかわされ、そのまま、リ・リラの横を通り過ぎていった。
そして、最後の1人は、横を通り過ぎる時に、リ・リラに足を掛けられて、無様に転倒していた。
(対峙した時から、感じてはいたけど……)
リ・リラは、大変な事に巻き込まれたと感じていた。
リ・リラは、免許皆伝の剣士である。
なので、対峙した時に、相手の力量は大体分かる。
そう、もう、構えがなっていないのである。
わざとそうしている訳ではなく、何か勘違いしていると思われるレベルだった。
リ・リラが、剣で攻撃を受け止める事すらしなくてもいいぐらいのレベル差があった。
(多分、弱い者いじめは得意なんだろうけど……)
リ・リラは、やれやれ感満載で、溜息をついた。
「きぇぇぇ!!」
堪らず、子爵は、妙な金切り声を上げて、リ・リラに斬り掛かってきた。
キィーン!!
リ・リラは、それを受け止めた。
「中々やりますな、陛下。
それでこそ、今後の調教のしがいがあるというもの!」
子爵は、舌舐めずりしながらそう言った。
「……」
リ・リラは、あまりの事に何も言えなくなってしまった。
ぎりぎり……。
つばぜり合いが続いた。
そして、子爵がリ・リラの後ろに回り込んだ4人に合図を送った。
4人は、リ・リラの後ろから一斉に斬り掛かった。
リ・リラは、力をスッと抜くと、そのまま横に身を引いた。
すると、見事なまでに子爵はつんのめって、4人に向かって行った。
そして、お約束通りに、子爵と4人は正面衝突して、その場に、全員倒れ込んでしまった。
テンプレート的に無様だった。
(これ、続けないといけないのかな……)
リ・リラは、本当に困ってしまった。
(切り捨ててしまうのが、一番面倒がないかも知れないけど、その後の事がねぇ……)
リ・リラは、5人には目もくれなかった。
現状よりも後始末の事を考えていたからだろう。
見下されもしない子爵は4人の上で、立ち上がろうと必死にもがいていた。
ジタバタしている内に、手足が絡まっており、全員、容易に起き上がれないようだった。
(いっその事、逃げ出してしまえばいいのでは!)
リ・リラは、エリオの顔がふと浮かんだので、そう言う結論に至った。
と同時に、エリオが何故そう言う気持ちになるか、少しは分かった気になった。
(いやいや、分かってはいけない気がする!)
リ・リラは、首をぶんぶんと横に振っていた。
正気を取り戻そうとしていたのだった。
「きぇぇぇ!!」
子爵は、何とか立ち上がると、リ・リラに襲い掛かってきた。
「リ・リラ、危ない!」
変な方向から、聞き慣れた声が聞こえた。
「えっ?」
リ・リラは、その声にびっくりしてしまった。
その為、背後から襲ってくる子爵から完全に注意が逸れてしまった。
「ぎょぇぇぇ!!」
耳をつんざく悲鳴が響き渡った。
「リ・リラ!」
声の主は、急いでリ・リラに駆け寄ってきた。
「何で、あんたがここにいるのよ!」
リ・リラは、素に戻った声を上げていた。
声の主は、エリオだった。
「びっくりして、切っちゃったじゃないの!」
リ・リラは、迷惑そうにそう言った。
地面には、右手首を押さえて、絶叫を上げる子爵が転がっていた。
右手はなかった。
「リ・リラ!!」
エリオは、そのままリ・リラの傍まで来ると、いきなり、リ・リラを抱きしめた。
「え?え?」
リ・リラは、びっくりしてしまい、言葉が出てこなかった。
「良かった、無事で、良かった」
エリオは、珍しく取り乱していて、安心していた。
「……」
リ・リラは、無理に何かを言うのを止めて、身を任せた。
こちらも、安心していた。
そして、思わぬ事に、天にも昇る心地になっていた。
とは言え、リ・リラの残念な面が現れた。
シャルスを始め、エリオに付き従ってきた者達が、子爵一派を手早く縛り上げているのが目に入ったからだ。
「ちょっと、何で、ここにいるのよ!
到着までにはまだ時間が掛かる筈では?」
リ・リラは、無念な思いで、エリオを引き剥がした。
「戻ってこられたので、ここにいるのですが……」
エリオは、リ・リラの顔をまじまじと見ながら、答えに窮していた。
……。
2人の間に、何だか訳分からない沈黙が訪れていた。
ドッカーン、ドーン!!
訳分からない沈黙が訪れると共に、砲撃音と爆音が響いた。
「あんた、何したの!」
リ・リラは、エリオを詰問した。
取りあえず、ここにエリオがいる理由なんて、どうでも良くなったのだった。
「何って、ホルディム伯がいる建物を砲撃したのですよ……」
エリオは、それ以外に何かあるのと言った表情で答えた。
「伯爵のいる位置を特定していたの!」
リ・リラは、エリオの首を絞めるとばかりに襟首を掴んだ。
「しらみつぶしに当たってくれていたから、特定できたのですよ」
エリオは、慌てて弁明した。
(それにしても、まだ何十箇所とあったのに……)
リ・リラは、エリオを締め上がる力を緩めながらそう思った。
と同時に、その理由を聞くのは無駄だと悟った。
こう言う事に関しては、天性の才能がある人間である。
まあ、それ以外が何も出来ないので、当然だ!
「闇ね……」
リ・リラは、諦めたようにそう呟いた。
もう考えるのを放棄したようだった。
これで、何度目だろうか?
「えっと……」
エリオは、リ・リラが何故そのような表情になったのか分からず、戸惑っていた。
「『漆黒の闇』と言った所かしらね……」
リ・リラは、エリオ、特に髪を見ながら、勝手に納得したようだ。
『漆黒の闇』
言葉自体は格好見えるのだが、よくよく考えると、残念さが先行するような言葉である。
とは言え、目敏いエリオの部下達は、その言葉をしっかりと覚え込むのだった。
笑いを堪えて……。
そして、覚え込んだ後は、まあ、そのお、なんだ……。
それはともかくとして、話を戻そう。
「はぁ……」
エリオは、戸惑っていた。
状況は緊迫しているのに、この2人は何をやっているのだろうか?
「まあ、いいわ!
兎に角、今はこの事態を収めるのに、あなたの手腕が必要よ!」
リ・リラは、言いたい事は山程あったが、女王として今は全て飲み込む事にした。
「御意」
エリオはそう言うと、騒乱鎮圧の為の総指揮を執り始めるのだった。
と言うか、エリオも聞きたい事は山程あったが、取りあえずは、置いておく事にした。




