その8
翌朝、バンデリックは驚愕する事となる。
と言うより、頭を抱えたくなる事態に陥っていた。
エリオ艦隊が夜の内に秘に位置を変えていたからだ。
端的に言ってしまえば、より東に動いたと言った所だ。
バンデリックにして見れば、あのままの睨み合いが続くと考えていた。
そして、補給線が長い、と言うより、確保できていないサラサ艦隊が撤退して、めでたしめでたしと言った流れを想像していた。
だが、その予想に反して、エリオ艦隊が動いた。
「まるで、こちらを挑発しているようね」
いつの間にかに、バンデリックの横にいたサラサがニヤリと、不適≪・・≫な笑みを浮かべた。
この瞬間、バンデリックは自分の心の声が漏れたと思った。
と同時に、頭を抱えた。
抱えたかったが、サラサがすぐの隣にいるので、実際には出来なかった。
そして、サラサが予想通りの反応を示したので、もう、まあ、嫌な予感しかしなかった。
「全艦、敵を追撃する!
面舵!!」
サラサは頭に来ているはずなのだが、嬉々として命令を下していた。
バンデリックはそれに従う他なかった。
サラサ艦隊は、命令通りにエリオ艦隊の追撃を始めた。
艦隊の足の速さでは、エリオ艦隊の方が上である。
なので、普通、追い付けない筈。
だが、エリオ艦隊は海岸線を座礁しないように、クネクネ航行していた。
それに対して、サラサ艦隊は直線的に航行していた。
つまり、足の遅い筈のサラサ艦隊でもエリオ艦隊の追撃が出来たと言う事である。
「昨晩は新月。
暗闇の中でも動けるとは、流石に地の利は向こうにあるといった所ね」
サラサは追撃を続けながら感心したように言っていた。
とは言え、ライバル心をかき立てられているのは、明白だった。
依然として、不適≪・・≫な笑みを浮かべ、やってやろうじゃないかという態度だった。
こうなってしまったら、下手に止めない方がいいのは、バンデリックにはよく分かっていた。
先程から、無言で、全く逆らわないのはそのせいである。
あ、まあ、逆らわないのは普段も一緒かも知れない……。
だが、同時に、サラサが無茶な事をしない事も、バンデリックにはよく分かっていた。
サラサ艦隊は、エリオ艦隊の頭を抑えるように、航行を続けていた。
だが、決して、飛び込んで砲撃戦を展開しようとはしなかった。
そう、エリオのテリトリーには決して踏み込まない。
ただ、行動の自由を与えずに、プレッシャーを掛けていく。
そして、サラサのペースに巻き込もうとしていた。
エリオとサラサの直接対決は、砲撃戦ではなく、完全に神経戦になっていた。




