その16
「それにしても、こうも易々と侵入できるものなのでしょうか?」
ヤルスは、建物の出口に差し掛かった所で、疑問に思っていた事を口にした。
数が足りないかも知れないが、効果的に親衛隊を配置していた。
「ああ、たぶん、抜け道を使ったのでしょう」
リ・リラは、ヤルスの疑問に答えた。
「我が家は、ホルディム家には教えてはいませんが」
ヤルスは、慌てたようにそう言った。
「あ、そうじゃなくて、3公爵家の他に、ル・デン陛下がホルディム家にも抜け道を作るように新たに命じたのです」
リ・リラは、ヤルスが手引きしたとは思っていない事を告げた。
抜け道の存在は、王家だけではなく、3公爵家も知っていた。
抜け道は、互いの家が他の家に知られないように、それぞれがその建設に当たっていた。
また、それぞれの抜け道に関しては、他言無用どころか、惣領とその跡継ぎにしか伝えられていなかった。
それが、新たに、ル・デン時代に一つ追加され、それがホルディム家の秘密の抜け道となっていた。
「それを使った為に、王宮内の親衛隊が対応できないでいるんでしょうね。
侵入した敵はそれ程多くないと思われます」
リ・リラは、更に続けた。
「えっ?」
ヤルスは、怪訝そうな表情になった。
こうなると、もう一つの疑問が浮かんできたからだ。
「すみませんねぇ、わたくしもその抜け穴に関しては、よく知らないのです。
何せ、ル・デン陛下がその事を告げないまま、崩御なされてしまったので。
だから、噂程度と今まで思っていました」
リ・リラは、どうしてこのようになったのかを説明し終えた。
(成る程、そうなると、位置さえ、分からなかったのだから仕方がないか……)
ヤルスは、納得せざるを得なかった。
だが、だからと言って、状況が好転する訳ではなかった。
その証拠に、入口を出た途端、敵に襲われたからだ。
キィーン!!キィーン!!
金属がぶつかる音が2回した。
ヤルスとリーメイが敵の初撃を剣で受け止めていた。
なので、後から来たリ・リラは、落ち付いて、さっと剣に手を掛けた。
いよいよ、真打ちの登場とばかりに剣を抜こうとした。
「リ・リラ様、ここは我らに任せて、お逃げ下さい」
リーメイは、臨戦態勢になったリ・リラにすぐにそう声を掛けた。
その間にも、リーメイは、敵の攻撃を2度3度と受けて止めていた。
侍女とは思えぬ、華麗な剣さばきだった。
「……」
リ・リラは、折角気分が盛り上がった所に、水を差されて格好になり、目が点になっていた。
ここは、わたくしも一緒に戦う場面でしょうと言わんばかりだったのが、逃げろといわれたからだった。
「陛下、お早く!!」
ヤルスの方も、動こうとしないリ・リラに向かって、逃げるように促してきた。
ヤルスの方は、リーメイより多くの敵を引き受けていた。
敵は十数人。
2人は当然の事だが、押され気味だった。
「分かりました」
リ・リラは、何故か憮然とした表情でその場を去った。
すると、押されまくっていた2人が一気に盛り返した。
リ・リラがいるお陰で、2人の実力が発揮できていなかったのは明白だった。
そして、それを悟ったリ・リラは1人、その場を離れた。
(とは言え、この後、どうしましょう?)
1人になったリ・リラは、とりあえず中庭を抜ける事にした。




