その15
「いたぞ!捕らえろ!」
リ・リラ達が執務室から出ると、血走った目の集団がこちらに走ってきたいるのが見えた。
「逃げましょう!」
リ・リラが、そう叫んで走り出した。
その後を、リーメイとヤルスが追った。
しかし、リ・リラはすぐに立ち止まった。
「何しているの!あなた達も、わたくし達と逃げるのよ!」
リ・リラは、敵を食い止めようとして身構えている2人の扉番に叫んだ。
思わぬ言葉に、2人の扉番は顔を見合わせた。
人数的に、時間稼ぎにもならないのは明白だったので、リ・リラはそう声を掛けた。
とは言え、すぐにはその命令には従えなかった。
「早く!!」
リ・リラが更に促すと、2人の門番は、3人の方へ走り出した。
それを確認すると、リ・リラ達3人も再び走り出した。
「待てぇぇぇ!」
お決まりの台詞が、追っ手から掛かった。
「それで止まる馬鹿はいないでしょうに」
これまたお決まりの台詞が、リ・リラから出ていた。
がちゃがちゃ……。
5人はそのまま廊下を疾走していったが、T字路の差し掛かった辺りで、進行方向とは違う左側から甲冑を着て、走ってくる集団の音が聞こえた。
(挟み撃ちになる!!)
リ・リラは、そう思いながら、走りを止めなかった。
他の4人も、それに気が付いていたが、リ・リラが走りを止めないので、それに続いた。
そして、5人は間一髪、その集団より早くT字路を通り抜けられた。
「陛下!!」
その集団から、一斉に叫び声が上がった。
リ・リラは、聞き慣れた声が複数したので、立ち止まって振り返った。
「よくぞ、ご無事で!!」
集団からは、所々、感激して泣きそうな声が聞こえてきた。
声の主は、大蔵省大臣スリアン候だった。
他にも、民部省大臣マルチアン候、刑部省大臣フロイトン候、宮内庁長官ローア伯、神祇庁長官スワリトン伯、大学庁長官モリソン伯と内政トップの面々が勢揃いしていた。
それどころか、彼らの子息、そして、その部下達も大勢駆け付けていた。
リ・リラの人望と、アイドル性によるものであろう。
戦いには不向きかも知れないが、別の意味の親衛隊であり、人数は追っ手の数を遙かに凌いでいた。
「ここは我らが食い止めます!
陛下は脱出なさって下さい」
スリアン候から、これまたどこかで聞いた台詞が聞こえてきたが、必死になる人間達はやはりどこか似てしまうのだろう。
別親衛隊はそう言うと、持ってきた大きな盾を廊下に並べて、防御陣地を築いた。
それに、対して敵集団は攻勢を仕掛けてきた。
がんがん、ばらばら……。
別親衛隊はどう見ても、不慣れである。
だが、狭い回廊を利用し、盾を複数人で支える事で、その攻勢に対応していた。
と同時に、数的有利と、ドルオタパワー並みの不思議な力でそれに対抗していた。
また、幸いな事に、追っ手に剣豪というレベルの者はいないようだった。
寧ろ、レベルが低いように感じられた。
(ホルディム伯は、どんな訓練をさせていたのだろうか……)
リ・リラが、こんな変な事を思ってしまうぐらいのレベルだった。
「陛下、彼らの好意を無駄にしてはいけません」
ヤルスは、意外な光景に感心しながら、リ・リラに離脱を促した。
「分かりました」
とリ・リラは、ヤルスにそう頷くと、
「皆さん、感謝します」
と別親衛隊に声を掛けると、踵を返して、走り出した。
それに、リーメイとヤルスが続いた。
「我らはここで、閣下達を援護致します」
2人の扉番は、そう言うと、同時に、別親衛隊の前面に躍り出た。
彼ら2人は、戦いのプロであり、状況判断が出来る人間である。
その為、別親衛隊の抵抗力が格段に上がった。
「頼みます」
リ・リラは、そう言うと走り始めた。
(なんと有り難い事か!
彼らには逃げるという選択肢があったのに)
リ・リラは、彼らの好意を噛みしめながら、闘争を続けるのだった。
これにより、とりあえずの危機は回避できた……。




