その14
「さて、どうしたものでしょうか?」
リ・リラは、まるで他人事のように、そう呟いた。
リーメイとヤルスは、ギョッとなってリ・リラを見た。
2人とも、リ・リラにエリオが乗り移ったのではないかと思ったからだ。
そう、自分に迫ってきている危機に対して、まるで無関心のように感じられた。
(どうやら、ホルディム伯はわたくしの身柄さえ確保できれば、この反乱に勝利できると考えているようね)
リ・リラは、敵の真意を見抜くと同時に、敵の浅はかさを思い知ったようだった。
なので、危機感が感じられなかったのだろう。
そして、当然、それは、自分が簡単に捕らえられるという見方をされている事が、見え見えだった。
リ・リラは、それに我慢が出来ないようだった。
とは言え、反乱を起こした側から見ると、リ・リラの身柄を抑えようとするのは定石である。
「リ・リラ様、敵がここに向かってきている事はお分かりですか?」
リーメイは、心配になって尋ねた。
「はぁ?そんな事は分かっています。
わたくしを馬鹿だと思っているのですか?」
リ・リラは、憤慨した。
「あ、いえ、そうではないのです。
何をお考えになっているのかを知りたいのです」
リーメイは、珍しく押され気味でそう言った。
「何を考えているって、決まっているではありませんか!
どこで、迎え撃てばいいのかを思案していたのです」
リ・リラは、きっぱりと言い切った。
「……」
「……」
リーメイとヤルスは、絶句すると共に、ブラックアウトする寸前だった。
まあ、女王自ら戦うなんて、有り得ないからだ。
と共に、2人は、やっぱりかとも感じていた。
「動きやすい中庭で戦うか、多人数でも相手がしやすい廊下で戦うか、ここに立て籠もるか……。
色々と選択肢があるわよね……」
リ・リラは、そう呟いていた。
だが、女王が言う台詞ではない事は確かだった。
リーメイとヤルスは、顔を見合わせて、呆れる他なかった。
とは言え、このまま放って置く訳には行かない。
「まずはここを退去なさるのが得策だと思います」
ヤルスがそう口を開いた。
復帰後、ヤルスはずうっと成り行きを見守るだけに留めていた。
だが、こうなってしまったら、口を挟まない訳にはいかなかったのだろう。
放っておけば、確実に事態は悪化する。
あ、いや、そうとも限らないのだが、女王が前面に出てくると言う場面は極力無くしておきたい。
リスクヘッジの面もあるのだが、それ以上に、他の面が心配だからだ。
「???」
リ・リラは、不思議そうな表情でヤルスを見た。
「私は戦いの事はよく分かりませんが、敵がここを目指している事は確かです。
何も、分かりやすい位置にいる必要はございません」
ヤルスは、呆れながらもそう説明した。
「ああ、成る程……」
リ・リラは、今気付いたとばかりに、納得した。
迎撃する事しか頭になかったのは明白だった。
ヤルスはその姿を見て、敵に対する反応はエリオと一緒なのに、何故対応が真逆になるのかを疑問に思わざるを得なかった。
「さてと」
リ・リラはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、右手には剣を持った。
勿論、まだ鞘に入れたままだが、戦う気満々だった。
「で、どこに移動したもんかしらね……」
リ・リラは、格好は勇ましいのだが、困った顔をしていた。
その姿を見て、リーメイとヤルスは、力が抜ける思いだった。
「脱出する事も考えると、港側に移動すべきかと思われます」
ヤルスは、そう進言した。
「王宮への侵入を許したばかりか、王宮を脱出するとなると、飛んだ笑い者になりますね」
リ・リラは、自虐的にそう言った。
「リ・リラ様……」
リーメイは諫めようとしたが、リ・リラは分かっているとばかりに、手で制した。
「わたくしが、捕まったり、殺害される方が、問題という事ですね」
リ・リラはそう言うと、出口へ向かって歩き始めた。
(また、そういう事をさらりと言う……)
ヤルスは、リ・リラに呆れながらその後を追った。




