その13
「閣下、王宮に賊が侵入したとの事です」
シャルスが、エリオにそう報告した。
エリオ艦隊は、王都に入港中だった。
(あれ?閣下の反応がない……)
マイルスターは、即時に指示が飛ぶと思っていたので、拍子抜けした。
そして、命令の催促の為に、隣にいるエリオを見た。
(いない!!)
マイルスターは、隣にいる筈のエリオがいない事に仰天していた。
そして、何故、どこに行ったのかをシャルスに聞こうと前に向き直った。
「えっ?」
マイルスターは、思わず仰天の声を上げてしまった。
彼にしては、珍しい事である。
シャルスもまた忽然といなくなっていた。
「ボートを降ろせ!!」
エリオの怒鳴り声が、艦首方向から聞こえた。
マイルスターは、びっくりしてそちらを見ると、エリオとシャルスが艦首方向に走っているのが見えた。
堪らず、その後を、正にあわくって追い掛けた。
エリオの命令をすぐに水兵達は実行に移し、艦からボートを下ろし始めていた。
艦は大きい為、入港に時間が掛かる。
その為、ボートで先に上陸しようとしているのは明らかだった。
下ろし始めているボートにエリオは飛び乗り、シャルスがそれに続いた。
「3人付いて来い!!」
シャルスが、水兵達に声を掛けると同時に、3人の水兵が、2人の後に続いた。
いずれも艦内では、凄腕の剣士として知られる兵達だった。
マイルスターは、何とか追い付き、それに続こうとした。
が、エリオに手で制された。
「マイルスターは、後の事を頼む」
エリオは、降ろされているボート上でそう言った。
「何をです?」
マイルスターは、下りていくボートを見下ろしながらそう聞いた。
でも、よく考えてみれば、間抜けな質問である。
聞かなくても、後の事を一切合切任せられたのは明白だった。
それだけ、マイルスターも慌てていたのだろう。
こう言った時のエリオは、本当に思い切りがいい。
この為に、普段、自堕落な態度を取っているのではないかと思わせる程である。
「艦隊の指揮、ホルディム伯の捕縛など、先程打ち合わせたとおりに事を運んでくれ」
エリオがそう言った瞬間、ボートは海面に降り立っていた。
そして、マイルスターの返事も待たずに、岸壁へと向かって行った。
「……」
マイルスターは、その光景を絶句しながら見守る他なかった。
(閣下が駆け付けて、お役に立つのでしょうか?)
マイルスターは、総参謀長らしく核心を突いてしまった。




