その9
反乱が勃発した中、エリオ艦隊はようやくリーラン王国の近海まで戻ってきていた。
「ホルディム艦隊とアリーフ艦隊を確認。
合計42隻」
シャルスがそう報告してきた。
近海までは来ているが、まだ陸が見えてくるような位置ではなかった。
「迎撃する海域としては理に適ってますな」
マイルスターは、いつもの和やかな口調でそう言った。
とは言え、ある意味、意外そうな表情も加わっていた。
ホルディム伯とその息子アリーフ子爵。
この2人は、策謀はともかく、海戦はあまり得意ではない筈である。
なので、程よい距離感というものを把握しているかどうかは怪しいと感じていたからだ。
ともかく、ここなら数の有利を活かせる。
「……」
エリオは、マイルスターの言葉どころか、シャルスの報告にも反応しなかった。
艦隊の進路は、最短コースでカイエスに向けられたままだった。
4vs42。
勝ち目のない戦いが始まろうとしていた。
「閣下、ホルディム伯が首謀者の1人である事は明白です」
マイルスターは、何の反応も示さないエリオに流石に驚いていた。
戦い前にいつも驚くのだが、今回は異質なものを感じた。
あ、まあ、毎度、異質なものを感じているようなのだが……。
また、マイルスターが首謀者の1人と表現したのは、この時点でハーネス家の動向がエリオ側に伝わっていなかったからだ。
とは言え、目の前の艦隊が敵対行動を取っているのは明らかだった。
「うーん、現状ってどうなっているのだろうか?」
エリオは、いつもの間の抜けた感じで、素朴な疑問を口にしていた。
「閣下……」
マイルスターは、呆れ果てて、苦言を呈しようとした。
だが、呈するのを止めた。
(あれ?確かに……)
マイルスターは、エリオの素朴な疑問を今一度頭の中で、再生した。
反乱は拡大しているという報告は受けていた。
そして、ロジオール公も出撃したという報告は受けていた。
だが、首謀者に関しては、依然として曖昧。
今後、加速度的に反乱が広まるかというと、そう言う報告は受けていなかった。
まあ、これはロジオール公が前面に出てきた事が大きいのだろう。
とは言え、反乱の目的自体を、エリオは把握できていなかった。
首謀者にして見れば、明白なのだが、このぐちゃぐちゃな状態。
エリオにとっては、どう考えたらいいのか、悩ましい所だった。
稀代の策略家にとっては、全く理屈に合わないからである。
(情報収集が足りない……)
マイルスターは、エリオの様子をそう捉えた。
だが、ホルディム艦隊が目前に迫っているので、首を振って、それらは置いておく事とした。
「閣下、敵が迫ってきております。
まずは、その対処を」
マイルスターは、危うくエリオのペースに巻き込まれるのを寸前で回避した。
いや、これもなんか変である。
味方で、指揮官であるエリオのペースに、本当だったら完全に巻き込まれるべきである。
いつもながら、変な感じを覚えざるを得なかった。
「あれ、敵なのかな?」
エリオは、じっとホルディム艦隊を観察していた。
そして、苦笑いなのか、少し笑っているようだった。
「閣下、何を仰っているのですか?」
マイルスターは、エリオのいつもの仏心が出たと感じた。
「だって、敵意を感じられない」
エリオは、あっさりと断定した。
「閣下!」
マイルスターは、珍しく叫んだが、いつも以上に当惑していた。
叫んだがいいが、いつも通りのエリオがそこにいたので、ぬぐぐっといった感じになっていた。
そう、戦場では比類なき人物である事を思い出していた。
まあ、その他がダメすぎるので、側近であるマイルスターさえ、すぐに忘れてしまうのだが……。




