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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
20.反乱

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その5

 さて、矢面に立たされる羽目になったリ・リラである。


 リ・リラは、自分の執務室でロジオール公の訪問を受けていた。


 焦るエリオに対して、全くの真逆で落ち付いた様子だった。


 当事者になると、妙に落ち付いてしまう人間がいるのは確かだ。


 そんな性格の持ち主は、女王に向いているのやも知れない。


「陛下、本当によろしいのでしょうか?」

 ロジオール公は、戸惑いながら尋ねた。


 無論、相手はリ・リラだ。


「よろしいも何も、もう出撃準備は出来ているのでしょう?」

 リ・リラは、甲冑姿の公を見ながら、微笑みながらそう言った。


「はぁ……」

 勇ましい甲冑姿とは対照的に、公はかなり戸惑っていた。


(陛下はピンチだというのに、何故こんなにも落ち付いていられるのだろうか……?)

 公は、心配を通り過ぎて、最早呆れる他なかった。


「一連の作戦の取り決めとして、騒乱は速やかに収める事が肝要との事でしたよね。

 公にはそのように動いて貰います」

 リ・リラは、女王然としており、何の迷いもないようだった。


「しかし、陛下、ヘーネス公、カカ侯共に、連絡が取れなくなっております」

 ロジオール公は、一番の懸念点を口にした。


「確かにそれは心配だけど、だからと言って、騒乱を放っておく訳には行かないでしょに」

 リ・リラは、公の言いたい事は分かるが、それを無視する事にしたらしい。


 とは言え、公もそれで引き下がる訳には行かなかった。


「しかし、陛下、これは……」

 ロジオール公が、尚も言葉を重ねようとした所、リ・リラに手で制された。


 無論、「罠」という言葉を制されたのだった。


 でも、まあ、そんな事は言われるまでもなく、リ・リラにも分かっていた。


「ロジオール公、まずは一つ一つ解決していきましょう」

 リ・リラは、静かに落ち付いた口調でそう言った。


「で……」

 公は、敢えて罠に飛び込む必要はないと思っていたので、更に言葉を重ねようとした。


「現在、ヘーネス公とカカ侯の所在を確認中です」

 リ・リラは、再び公の言葉を遮った。


「えっ?」

 公は、リ・リラの言葉に絶句してしまった。


 想定すべき点がすっぽりと抜け落ちていたからだ。


 とは言え、リ・リラは何も考えていない訳ではなかった。


 2人が共にいなくなった時点で、結論を出していた。


 首謀者は、恐らく、連絡が疎かになった人物であろうという事を。


「まあ、あの2人の事ですから、まあ心配ないでしょう」

 リ・リラは、公と思っている事が真逆な事を言った。


「陛下……」

 公は、リ・リラがそこまで腹を括っているのかと察して、それ以上は何も言わなかった。


「第2軍の残留部隊の指揮権をわたくしに委譲させて貰います」

 リ・リラは、もう既に決定事項として、事務処理に取り掛かった。


「承知しました」

 公も、腹を括ったようだった。


 事、ここに至っては致し方がないと言った感じだった。


(クライセン公は、こういった事態を想定して、第2軍を全て連れて行かなかったのだな……)

 公は、一方で、エリオに感心していた。


 とは言え、これはちょっと違っていた。


 まずは、兵站の問題であり、全軍を連れていくのは負担が大きすぎた。


 そして、万が一、こういう事態があった場合に備える必要があった。


 そう言った事から、本当のところ、エリオは第2軍を全て動かしたくはなかったのだった。


 そして、今、その事を後悔していた。


 その一方で、サキュスの工廠に打撃を与える為には、第2軍がいた方が楽であるのもまた事実だった。


 その為、ロジオール公とミモクラ侯の提案を受け入れたのだった。


 それが、功を奏して、サキュス攻防戦では有利に戦いが進んだ。


 が、こちらの方は、逆にピンチを招いてしまう可能性があった。


 と言うより、まあ、招いていますね。


「ロジオール公、貴公に命じます。

 これより出撃し、この騒乱を収めなさい。

 更に、騒乱の火種をも鎮火なさい」

 リ・リラは、命令を下した。


「御意。

 微力ではありますが、全力でご命令を実行させて頂きます」

 公は、敬礼を持って、リ・リラの命令に答えた。


 リ・リラは、それを見て、ゆっくりと頷いた。


「武運の方、祈っております」

 リ・リラは、公に対して、穏やかにそう言った。


「ありがとうございます。

 陛下の方もお気を付けて」

 公は、リ・リラの心遣いにそう答えた。


「分かっております。

 エリオ……、クライセン公も、もうこちらに向かっている頃でしょう。

 心配はいりません」

 リ・リラは、公を安心させるようにそう言った。


 この時、エリオは確かに引き返してはいたが、その連絡はまだなかった。


 とは言え、この2人の関係上、そんな事は言われなくても分かるのだろう。


 意地悪く考えると、焦っているエリオを想像するだけで、リ・リラは落ち付いて笑顔になっていくような感じさえあった。


「では、私はこれにて」

 ロジオール公は、一礼すると、リ・リラの前を辞した。


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