その2
「閣下?」
マイルスターは、自己完結してしまっているエリオに声を掛けた。
「反乱の規模は小さいが、分散しすぎている。
このままだと、第1軍をも投入しなくてはならないだろう」
エリオは、深刻そうにそう言った。
「!!!」
マイルスターは、今一度、報告書を見返した。
ページをめくりながら、マイルスターは、確かにその通りだと感じた。
「しかし、閣下、この規模が続くだけならば、問題ないのでは?」
マイルスターは、まだ引っ掛かっている様な感じで聞いてきた。
「規模だけならば、そうかも知れないが、問題は予想より早く反乱が勃発した事だ」
エリオの方は、更に深刻そうに言った。
「えっ?」
マイルスターの方は、事の深刻さを飲み込んだようだった。
とは言え、後出しじゃんけんみたいな言い方にはちょっと納得していない様だった。
それでも、参謀長としての役目は忘れてはいなかった。
「当初の想定では、この反乱はハイゼル候の置き土産的なものだと言う事でしたが?」
マイルスターは、エリオの反応を見るかのように、皆までは言わなかった。
「ああ、それだけではないかも知れない」
エリオは、溜息交じりにそう言った。
ルドリフが、王都カイエスを攻撃する際、何か、仕掛けてくる事は予想はしていた。
国内に、全く不満分子がいない訳ではない。
それを使う事は十分予想できていたので、それに対応する術はロジオール公と共に策定していた。
そして、ルドリフがカイエスを攻撃する時のタイミングを見計らって、反乱が起きる筈と予想していた。
だが、クライセン艦隊が一番遠ざかっているこの時期に仕掛けられていた。
内情が知られすぎていると感じた。
それに、ルドルフが仕掛けたのなら、反乱が起きる機会が失われる筈でもあった。
ゼロとまでは行かないとしても、これほど組織的には起きないだろう。
少なくとも、エリオには組織的に感じられていた。
「閣下は、国内の高位に就く者が、関わっていると思っていらっしゃるのですか?」
マイルスターは、確信を持って聞いてきた。
「ああ……」
エリオは、渋い表情でそう絞り出した。
エリオにとっても、想定外だったのだろう。
「それは、ヘーネス公でしょうか?」
マイルスターは、緊張感が増していたので、思わず、個人名を出してしまった。
「……」
エリオは何も言わずに、マイルスターを睨んだ。
「失礼しました」
マイルスターは、すぐに謝罪した。
「まあ、今は最悪の事を想定するが、滅多事は言わない事だ」
エリオは、らしくない口調で、そう厳命した。
(シーサク王国の件といい、ハイゼル候が起こした波紋が世界中に広がっている……)
エリオは、国内反乱だけではなく、世界情勢に目を向けていた。
確かに、ハイゼル候ルドリフが最初に波紋を起こしたのだろう。
だが、どう考えても中心にいるのはエリオ本人である事を、稀代の策略家は全く気が付いていないようだった。
それはともかくとして、リーラン王国は、諜報網は世界一である事は確かだ。
それに対して、ウサス帝国の謀略網は世界一だった。
なので、両国の長所が形として現れていた。
とは言え、どちらも世界一であるが、それだけで、各国を抑えられるものではなかった。
そして、この後に、世界情勢として現れてくるのだった。
エリオは、それ以外の要素を考慮していなかった事を後悔していた。




