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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
20.反乱

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その1

「バルディオン王国第2艦隊の撤退が、転機になりましたね」

 マイルスターは、炎上するサキュスの街を見ながらそう言った。


「そうだね……」

 エリオは、気のない返事をした。


 まあ、いつもの事のように思えるが、サキュスの街を見ているエリオは、いつも以上に浮かない顔をしていた。


 リーラン側の陸海からの攻撃により、サキュス側の抵抗は散発的であった。


 完全に圧倒していたと言っていい状況だった。


 工廠破壊を目的としてはいたが、街そのものにも大きな被害が出ている事は一目瞭然だった。


 そして、それを命令したのは自分だという自覚が、エリオには重くのし掛かっていた。


 敵国とは言え、無残な街並みを見るのは忍びないといった心情だった。


 だが、それを口にはしてはいけないという思いもあった。


 そう、最終的に責任を負うのは自分だという事だ。


(閣下、やはり、今回の作戦は望まれてはいなかったのですね)

 マイルスターは、分かり切った事だと感じていた。


 とは言え、座して攻撃されるのを待っている訳にも行かなかった。


 かなり過剰ではあるが、一応は防衛戦であるとも言えた。


 なので、エリオは攻撃する事を決断したのは、マイルスターにはよく分かっていた。


 しかしながら、いざ現実を突き付けられると、あまり気持ちのいい結果とは言えないのだろう。


 エリオのそんな気持ちが伝染しているのか、リーラン王国側は完勝とも言える戦いで、淡々と戦闘を続けていた。


 一糸乱れぬ戦闘行動は見事なものだったが、そこに、敵を倒した時の歓喜はほとんど無かった。


 とは言え、微妙な雰囲気ではなく、いつもとは違った緊張感があった。


「閣下、本国からの連絡です」

 シャルスは、そう言うと、報告書を読み上げるのではなく、エリオに手渡した。


 量が多い事もあったが、一目見て、すぐにエリオに渡すべきだと判断したのだろう。


 この雰囲気に呑まれるまでもなく、シャルスはいつも通り淡々と自分の仕事をこなしているのだった。


 それを見て、エリオやマイルスターは、いつも通りの空気に戻ろうとした。


 そんな中、エリオは、受け取った報告書を読み始めた。


 ……。


 沈黙が続く中、エリオがパラパラとすぐに読み終えるものと周りは思っていた。


 だが、エリオが報告書に目を通しているうちに、マイルスターとシャルスの方は何だか妙な違和感を感じ始めていた。


 と言うのは、目の前の戦闘状況より、本国の様子の方が心配な様子だったからだ。


 やはり、エリオは、時間を掛けて読んでいた。


 そして、何かを確認しているかのように、もう一度報告書を読み始めた。


 ……。


 再び、沈黙が訪れたが、意外な形でそれは破られた。


「全軍撤退準備!!

 第2軍には、速やかに撤退し、乗船するように。

 各艦隊は、第2軍の撤退の援護をするように」

 エリオから、意外な命令が発せられた。


 シャルスは敬礼をすると、すぐに命令を実行するべく、伝令係達と共に駆け出していった。


 エリオは、それを見て、遅れて、マイルスターに報告書を手渡した。


「……」

 マイルスターは、命令の訳を聞こうとした所に、報告書を手渡されたので、まずは黙る他なかった。


 そして、報告書を読み出した。


「???」

 マイルスターは、読み終えた後、読み間違えたのかと思った。


 そして、もう一度、報告書を読んだ。


 報告書にはリーラン王国内で反乱が勃発したとの事である。


 それも、あちらこちらで。


「閣下、予想より、反乱の状況が小さいように思えるのですが……」

 マイルスターの口振りから分かるように、反乱に対して、驚いた訳ではなかった。


 寧ろ、それを予想さえしていたようだ。


 まあ、それは、予めエリオから予想を聞かされていたからだった。


「これならば、急ぎ、撤退しなくても。

 こちらの戦略目標はまだ達成されていませんし……」

 マイルスターは、ちょっと探るように進言した。


 反乱規模はこちらの想定以下、そして、今回の作戦の戦略目標は100%達成している訳ではない。


 なので、マイルスターがこう進言するのは無理はない。


 しかし、そんな事はマイルスターが指摘しなくても、エリオには当然分かり切っている事だった。


 それなのに、急ぎ撤退命令を出したのは、やはり、見えている物が違うと、マイルスターは感じだからだ。


「やはり、第2軍を、ミモクラ候を連れてくるべきではなかったな……」

 エリオは、腕組みをしながら苦々しく言った。


 クルスを連れてきたのは、本人とロジオール公の強い意向があったのは確かだった。


 だが、最終的に決断したのは、エリオだった。


 こちらの作戦が楽になるし、反乱もロジオール公の第1軍さえ、王都から動かさなければ、問題ないと思っていたからだ。


 エリオは、見通しの甘さを悔いていた。


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