その14
「敵艦隊、我が艦隊の左翼に殺到してきます!」
ラルグがそう報告した。
「何だと!?」
ヴェルスは、サラサ艦隊の攻撃先の変更に驚いていた。
これまで中央部へ攻撃を集中して、こちらの指揮系統を圧迫し続けていたからだった。
「敵の侵入を許すな!!
何としても、敵の足を食い止めるぞ!!」
リンクは味方を叱咤激励した。
ドッカーン!!
ドッカーン!!
サラサ艦隊とアスウェル艦隊左翼の激しい撃ち合いが行われた。
しばらく続く激しい撃ち合いが続いた。
アスウェル艦隊は名誉挽回とばかりに撃ちまくった。
それにより、サラサ艦隊の出足は徐々に鈍っていった。
ヴェルスとラルグがほっとしようとした時、リンクが険しい表情をしているのに気が付いた。
不味い状況が近付いてきている予感がしてきた。
「閣下……」
ヴェルスが、リンクに声を掛けようとした。
しかし、それより早く事態は変化した。
出足を完全に止められたと思ったサラサ艦隊が一気に加速したからだ。
ボッカーン!!バキバキ……。
火柱が大きく上がると共に、木が破壊される音。
アスウェル艦隊の1隻が撃沈される音だった。
「7番艦、沈められました」
ラルグが慌てて報告した。
「くぅ……」
リンクはそれには答えずに、ぐっと奥歯を噛みしめた。
それに対して、ヴェルスは何か声を掛けようとしたが、それより早く、
「陣形を立て直しつつ、反撃。
決して打ち負かされるな!
何としても、敵の足を止める!」
とリンクは、すぐに自分の意思を示した。
激しい撃ち合いの中、先に被害を受けたアスウェル艦隊。
これにより、動揺が広がったが、リンクの叱咤激励により、士気が戻った。
そして、今は、兎に角、サラサ艦隊との撃ち合いを続行する事に専念した。
とは言え、これで、またサラサが先手を取ったと言える。
「閣下、新たに被撃沈1です」
シャルスは、こう言う状況でも極めて事務的に報告を挙げてきた。
エリオは、その報告を聞いてはいたが、聞くまでもなく、状況は分かっていた。
(やれやれ、こちらの思惑には乗ってくれませんか……)
エリオは、サラサの思い切りの良さに呆れる他なかった。
とは言え、エリオの事なので、こういう流れを全く想定していなかった訳ではなかった。
敵と味方が、思惑とはちょっと違う行動をしていただけだった。
「閣下……」
マイルスターは、間抜け顔で動かないエリオに声を掛けた。
エリオはリンクに完全に任せていたが、撃沈された事により、事態の悪化を懸念したからだ。
「ううん……、ちょっと肩に力が入りすぎかな……」
エリオは、マイルスターの思いとはあさっての方向の言葉を発した。
「……」
それに固まるマイルスター。
まあ、いつもの光景と言えば、そうなのだが……。
「アスウェル男爵、並びに左翼後方部隊に伝令。
艦隊陣形を左右に大きく展開せよ。
『無理に打ち合わずに、徹底的に、敵の攻撃を去なせ』とね」
エリオは、取りあえず、マイルスターの思いを汲んだのか、指示を出した。
それに対して、シャルスは黙々と、それを伝令係に指示していた。
そして、当のマイルスターの方は、望み通り命令を発してくれたとは言え、怪訝そうな表情だった。
攻撃されているの左翼部隊である。
そして、最も苛烈な戦闘を行っているのは、前方部隊だった。
対して、サラサ艦隊は、全艦が攻勢に転じていた。
この辺が、力が入りすぎているという事なのだろう。
その後、しばらく沈黙。
……。
ただ、意外に長く時間が過ぎていくだけだった。
とは言え、苛烈な戦闘は継続中。
エリオは、身じろぎもせずに黙っている。
(ええっと……)
マイルスターは、戸惑いながらもそれを口には出さなかった。
こう言う時は、自分が認識できていないだけで、エリオはちゃんと考えている筈だったからだ。
とは言え、傍目から見ると、それはかなり怪しい。
「左翼前方部隊は、艦列を維持したまま、後方へ後退。
左翼後方部隊は、更に左右に展開し、前方部隊の後退を援護。
中央部隊は、全艦前進し、敵の側面を攻撃。
右翼部隊は、中央部隊の外縁を反時計回りに進み、敵艦隊の後方へ」
エリオは、沈黙の時からタイミングを見計らって、矢継ぎ早に命令を出した。
しかも結構細かい。
俄に、伝令係の動きが激しくなっていった。
ただ、命令を下したエリオはいつも通りに静かだった。
(これは見事なカウンターだな……)
マイルスターは、地図上の敵味方の位置を確認して、いつものように驚いていた。
--- 艦隊位置 ---
As
AsECAs
As
SRAs
As
EC:エリオ艦隊、As:アスウェル艦隊
SR:サラサ艦隊




