その8
サラサ艦隊の方は、無茶な突撃で、バンデリックがハラハラしていた。
「守勢に回ったら、こちらに勝ち目はない。
押しまくるわよ!」
サラサは、バンデリックがハラハラし出していたので、先制した。
とは言え、その言葉はハラハラを止めるどころか、逆効果である事は言うまでもない。
はらはら……。
しかしながら、バンデリックは、サラサの言いたい事は分かっていた。
やっている事も間違ってはないと感じていた。
とは言え、加減なしの全力突撃は、副官としては心配せざるを得なかった。
「敵艦隊、東に転進!!」
マスト上からそう叫び声が上がった。
「ちっ!!」
サラサは、その声にすぐに舌打ちで反応した。
サラサが気に入らないと感じているの明白だった。
「閣下……」
バンデリックは、周りには何で気に入らないかが伝わっていないので、聞こうとした。
だが、サラサは、バンデリックをキッと睨むと、
「こちらの攻撃を去なしに掛かった。
まともに撃ち合わない気ね」
と言い放った。
補足説明をすると、別にバンデリックが気に入らなかったから睨んだ訳ではない。
エリオのやり方に頭に来ていたのだった。
「……」
バンデリックは、それでも睨まれたので黙ってしまった。
でも、まあ、黙っていれば、サラサが言葉を繋いでくれる事も分かっていた。
「数的有利の強みを活かすつもりね。
こういう戦い方も出来るのね」
サラサは、本当に忌々しそうに言った。
本当は、罵詈雑言で叫びたかったが、ぐっと我慢していた。
「閣下……」
バンデリックの方は、さてどうしようかと考え始めていた。
「こちらはスピードに乗っている。
撃ち合いになれば、敵の懐に飛び込む事だって出来た。
こうも簡単に、かわされるとは!!」
サラサの方は、あまりの悔しさに饒舌になっていた。
「……」
バンデリックは、今は声を掛けるべきではないと感じ、今度は積極的に口を噤んだ。
取りあえず、言葉は短いが説明はしてくれている。
感情は所々出しているので、ガス抜きにはなっているだろうという判断だ。
宿命の対決。
先手を取った形になったが、どうやら、サラサの思い取りには行かないようだ。
それどころか、不味い事態になりそうな予感があった。
「ん?」
サラサは悔しさマックスの状態だったが、戦況を冷静に見ていた。
この辺が、この娘の異常な所かも知れない。
こちらからの砲撃は続いていたが、傍目から見ると、完全に去なされていた。
それだけなら、サラサは今頃地団駄を踏んでいる筈だった。
「敵の総旗艦の左側手前の艦に照準を集中砲撃」
サラサは、随分と細かい指示を出した。
「閣下?」
バンデリックは、伝令係に指示を出しながらも、疑問が拭いきれないようだった。
「あの艦、浮いてくるわよ」
サラサは、そう断言した。
そして、その艦こそが、エリオ艦隊の4番艦だった。
奇しくも、エリオとサラサは、ほぼ同時に、艦隊運動の異変に気が付いていたのだった。




