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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
19.サキュス沖海戦 エリオvsサラサ

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その2

 エリオがクライセン艦隊を全力出撃させ、尚かつ、陸軍の第2軍を率いているのには訳があった。


 ラ・ライレ崩御に乗じてくる帝国の侵攻シナリオを3公会議で披露した。


 それを聞いたロジオール公とヘーネス公は、表情を曇らせた。


 2人もその予想はしていていたので、衝撃と言うまでは行かなかった。


 とは言え、当然ながら、不快感はあると言った表情をしていた。


 無表情でいつもいるヘーネス公でさえもだ。


 だが、そのシナリオに対して、悲観的すぎるとも感じていた。


 その雰囲気に構わず、エリオは、それに対しての対抗案をすぐに出した。


 エリオの計画は、サキュスの海軍工廠を破壊し、拠点としての機能を失わせる事が最終目標だった。


 既に、綿密な計画が進んでいる事を目の当たりにして、2人も俄に現実味を帯びてきてたと感じ始めた。


 作戦は艦隊のみで行う事が当初の計画だった。


 初日は、エリオの対抗策の話までで、2人に検討する時間が与えられ、会議は解散した。


 この3公会議時点では、帝国に動きはなかったので、時間的余裕はまだあったからだ。


 だが、披露したその日のうちに、ロジオール公から修正案の提案があった。


 エリオは、その内容を一読した後、即答を避けた。


 提案は、その作戦に陸軍も参加するというものだった。


「いえ、すぐに、結論を出して頂かなくても結構」

 ロジオール公は、エリオの執務室でそう言った。


「……」

 エリオは、訝しがるように無言で、ロジオール公を見詰める他なかった。


 年の功というのだろうか、どうも役者が違う。


「とは言え、軍の最高司令官としての裁可を願いたい」

 ロジオール公はそう言うと、椅子から立ち上がり、さっさと退出していった。


「……」

 エリオは、唖然としながらロジオール公を見送った。


(やられた……)

 エリオは、ロジオール公がいなくなってからそう思った。


 後の祭りと言う感じだった。


「公はどういったご提案をなさったのですか?」

 固まっているエリオに対して、マイルスターは総参謀長として聞いた。


 まあ、珍しいものを見たと言った感じだった。


「……」

 エリオは、依然として無言だった。


 だが、不機嫌そうな顔をして、提案書をマイルスターに突き付けた。


「拝見します」

 マイルスターは、いつもの和やかな口調でそう言いながらも、笑いを堪えていた。


 そして、受け取った提案書に目を落とした。


 ……。


 しばらく沈黙が続き、空気読めませんシャルスも流石に提案書が気になるのか、読んでいるマイルスターを注視していた。


「……」

 マイルスターは、読む終わると、無言でシャルスに、提案書を手渡した。


 シャルスは、受け取ると、すぐに読み始めた。


 マイルスターは、成る程という表情を浮かべながら、シャルスが読み終わるのを待った。


「……」

 シャルスは読む終わると、無言でエリオに報告書を返した。


 エリオはそれを何とも言えない表情で受け取った。


 取りあえず、不機嫌そうな顔からは変わっていたが……。


 ……。


 ただ、エリオが何も言わなかったので、沈黙は続いてしまった。


 気に食わない事が起きると、いつも通り黙ってしまう癖が出た格好だ。


「で、どうなさいますか?」

 マイルスターは、溜息交じりにそう聞かざるを得なかった。


 まあ、これもいつもの事だ。


 そして、最後には表情は和やかになっていた。


「……」

 エリオは、それでも沈黙を貫いた。


 と書けば、格好いいのだが、単に不貞腐れているだけだった。


「提案としては、理に適っていると思われます」

 マイルスターは、話を勝手に進める事にした。


 提案の有用性にエリオも気が付いていると踏んだからだった。


 そして、何が気に入らないかを聞き出す必要がある。


「……」

 エリオは、マイルスターの意図を察して、途端に不機嫌に戻った。


「敵、工廠を破壊するためには、陸海から攻撃するのは有効だと思います」

 マイルスターは、構わず続けた。


「……」

 エリオは何の反応も示さなかった。


「兵站の心配をなさっているのですか?」

 マイルスターは、探るように質問した。


「まあ、それは大いに心配だな……」

 エリオは、ようやく答えた。


 まあ、いつまでも大人気ない態度は良くないと思ったのだろう。


 いや、たぶん、単に検討しなくてはならない点を質問されたからに過ぎない。


 とは言え、言葉とは裏腹に、大いに心配している様子はなかった。


 兵力が増える分、兵站に負担が掛かるのは簡単に予測が可能である。


 いの一番に、兵站を考えるエリオが、この程度の準備をしていない訳は無かった。


「では、第2軍の助力を得るのに、何が問題なのでしょうか?」

 マイルスターは、質問している内に何だかドツボに嵌まっている感じになってきた。


 だが、この質問自体、話の流れから変だった。


 でも、まあ、エリオの本心が兵站にない事を見抜いているからこその質問だった。


 なので、3人の中では、何ら問題がなかった。


「総参謀長閣下」

 シャルスが笑いを噛み殺しながら、エリオとマイルスターの間に割って入った。


「!!!」

 マイルスターは、びっくりして、シャルスを見た。


 と同時に、こう言う時は、橋渡しをしてくれる時だと悟った。


「総司令官閣下は、第2軍の面倒を見るのがお嫌なんですよ」

 シャルスは、エリオの本心をズバリとマイルスターに伝えた。


「えっ?」

 マイルスターは、何を言っているのか、分からずに絶句してしまった。


 だが、横目で見たエリオの反応は、正にどんぴしゃりと言った感じだった。


 ……。


 再び、一時の沈黙。


「我が艦隊だって、人材難なんだ。

 使えるか、使えないか、分からない人材を投入しつつ、それをケアしなくてはならないのに。

 『陸軍の方も面倒を見ろ』だろ?

 やってられない!」

 エリオは、本当にうんざりとした感じだった。


 リーラン王国陸軍は、対外戦闘を主任務としてはいない。


 寧ろ、国内の治安維持の為に、各地に駐屯していた。


 ただし、陸軍第2軍は、即応隊として、受け持ち地域がない。


 そして、これを指揮するのが、代々ロジオール家の嫡男が務めていた。


 現在の指揮官は、ミモクラ侯爵クルス。


 対外戦闘の経験も揚陸作戦の経験もない。


 とは言え、国内での戦闘経験はあり、揚陸作戦の演習も多く行っている。


 だが、やはり、実戦は別物なので、それをケアしながら戦えという事である。


「はぁ……、しかし、リーラン王国軍を率いるのであれば、その位の事をして、当然かと思われますが……」

 マイルスターは、もう呆れる他なかった。


「こっちは中将、向こうは大将。

 大将ならば、自分の部下ぐらい、面倒見ろと言いたい」

 エリオは机に肘をついて、ぼやいていた。


 この辺の階級は、エリオが権限を取り戻したとは言え、正常状態にはまだなっていなかった。


「第1軍を遠征に加える訳には行かないでしょう」

 マイルスターは、更に呆れた。


 と同時に、これはエリオにトドメを刺しに行った。


 第1軍は、ロジオール公が直接率いる部隊であり、王都駐留軍だった。


「……」

 エリオは、正論に沈黙せざるを得なかった。


「では、ロジオール公の提案を骨子として、話を進めましょう」

 マイルスターは、進まない話を進める事を宣言した。


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