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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
18. 激突 エリオvsルドリフ

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その5

 太陽暦535年11月、後にサキュス攻防戦と呼ばれる事となる戦いがこうして始まった。


 稀代の策略家であるエリオは、帝国が王国に侵攻してくる状況を予め想定していた。


 そう、かなり前から色々な状況をシミュレーションしていた。


 なので、その為の準備も着々と行っていた。


 かなり前というのは、本当にかなり前で、ラ・ライレ存命中どころか、サリオ存命中の頃からである。


 なので、状況が変わる度に、計画を修正していた。


 ある意味、深慮遠謀と言えなくはない。


 だが、そこはそれ、これしか才能がない人物なので、やってしまえたのだろう。


 矛盾した言い方になるが、今回のようなクライセン艦隊の全力出撃は、エリオが変わった事を示していた。


 サリオやラ・ライレが存命中の頃は、2人が盾になってくれる事もあり、どうにも主体性に欠けていた。


 怠惰を良しとする人物なので、こうなるのは自明だろう。


 だが、もう盾になってくれる人がいなくなった。


 それどころか、今は、自分がその役をしなくてはならない。


 そうでなくては、絶対に守りたい人物を守れないからだ。


 そんな状況下、世界最高峰の諜報網が、帝国のカイエス侵攻計画を察知した。


 なので、エリオを含む全てのクライセン艦隊がこの地に大集合となっていた。


 穿った見方をすれば、現在の状況はエリオのたかが外れたのかも知れない。


 まあ、その辺の所は、今後、分かってくる事だろうと思う。


「ここまでは順調に進んでいますな」

 マイルスターは、エリオに確認を取った。


 普段は最前線で戦っている。


 なので、落ち着かないのかも知れない。


「3男爵とも、上手くやってくれているよ」

 エリオは、マイルスターの確認にそう応えた。


 こちらは、特段普段と変わった様子はなかった。


 前線にいようが、後方にいようが、指揮にブレは全く感じられなかった。


 帝都駐留艦隊が北上を開始した為、戦場が北側に推移していた。


 それに対応した指示をエリオは送っていた。


 そして、それを寸分違わず、3男爵は実行していた。


 つまり、エリオ艦隊には出番がないと言う事だ。


 怠惰を旨とするエリオはいいが、周りはシャルスを除いて、どうも手持ち無沙汰な雰囲気を醸し出していた。


「閣下、我が艦隊は如何致しましょうか?」

 マイルスターは、エリオ艦隊の面々の代表として、エリオに質問した。


「全艦待機。

 このままの位置に固定」

 エリオは、マイルスターの質問と言うより、要望ににべもないと言った感じで答えた。


 とは言え、決してサボりたいからこう言った命令を出している訳ではなかった。


 普段のエリオからすると、そう思われがちだが、シャルスから上がってくる報告を一つ一つチェックしていた。


 なので、前線と戦っている時と同様に、頭はフル回転であった。


 ぼけらっとしているように見えるが……。


(最前線で辣腕を振るうのも良し、全軍を統率する為に一歩引いていても良し。

 この御方の才能はやはり異常だな)

 マイルスターは、戦がある度に、新しい発見をすると感じていた。


 現在の3艦隊の良い連動性は、エリオが一歩引いた位置から見ているせいである事は明らかだった。


 奇襲を成功させ、敵を包囲体制に置き、戦果を着実に上げていた。


 完全なるワンサイドゲームだった。


「閣下、敵が中々崩れませんな……」

 マイルスターは、今度は敵に対する感想を述べた。


 やはり、手持ち無沙汰なのか、話題をどんどん変えてくようだ。


「ハイゼル侯は結構しぶといからな……」

 エリオは、マイルスターの感想を他人事のようにあしらった。


(と言う事は、やはり、現状は、想定の範囲内か……)

 マイルスターは、エリオの反応を見て、この話題はこれまでかと感じた。


 とは言え、こう言った態度だと、エリオは敵をそれ程脅威に感じていないような雰囲気である。


 こう言った行為が相手を苛立たせるのだろう。


 だが、長年、エリオの傍にいたマイルスターには分かってきた事があった。


 エリオは決して敵を侮るという事は決してしない。


 ただ、過小評価も過大評価もせずに、等身大で評価している。


 したがって、正しい情報に基づいて、現状を把握している為に、やたらとぼけらっと、いや、冷静に見えるのだった。


「では、我が艦隊も動きますか?」

 マイルスターはエリオにそう尋ねた。


 それに周りの水兵達が鋭く反応した。


「いやいや、ここで待機だよ」

 エリオは、にべもないと言った感じで、マイルスターの提案を拒否した。


 水兵達が一斉にガックリきていた。


 だが、マイルスターは、エリオが次の動きを待っているかに見えた。


(この御方には、何が見えているのか?)

 マイルスターは、またまた呆れながら、それを待つ他ないと思った。


 そして、空気読めませんシャルスが、自分と同じように、「それ」を待っているのに気が付いた。


(戦場が大きく動くのか?)

 マイルスターは、緊張感が増していくのを感じた。


「閣下、敵艦隊の一部が、アスウェル艦隊とティセル艦隊の間をすり抜けてきました」

 シャルスが、そう報告した。


(動いた!!)

 マイルスターは、予想より早く事態が変わったのに、驚いていた。


「承知した。

 3艦隊は、現行の任務を継続。

 敵の動きに合わせて、包囲陣形を組み直せ」

 エリオは、そう指示を飛ばした。


 だが、自分の艦隊への命令は一切ない。


 シャルスは、敬礼して、その指示を伝達するように取り計らっていた。


 すり抜けた敵艦は、真っ直ぐこちらに向かっていた。


 エリオ艦隊を目指しているのは明白だった。


(敵艦を迎え撃つのには、絶好の位置!!)

 マイルスターは、エリオの予測にはやはり驚愕せざるを得なかった。


「全艦、砲撃準備」

 エリオは、ようやく自分の艦隊へ命令を下した。


 待ちかねていた水兵達は一斉に仕事に取り掛かった。


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