その4
「小僧の位置は?」
ルドリフは、圧倒的不利な状況下で、ギョロリとした恐ろしい目で聞いてきた。
「現在の所、不明です」
ステマネは、即答した。
「くっ!!」
ルドリフは、忌々しそうに顔を歪めた。
艦隊は文字通りの全滅のピンチ。
こんな時に、エリオの位置を確認するとは……。
でも、まあ、ルドリフにとっては、当たり前の事なのかも知れない。
今回の進軍は、表向きの理由はともかくとして、エリオ討伐の為に起こしたものだったからだ。
とは言え、3個艦隊のクライセン艦隊の連携した攻撃である。
総司令官のエリオが、この戦場にいない訳はない事だけは確かだった。
それに、ルドリフの恨みはともかくとしても、戦況を好転させる為には、総司令官を叩くのが定石である事も確かである。
その為にも、ルドリフは、エリオの位置を知る必要があった。
だが、当然、クライセン3個艦隊の攻勢は弱まる事を知らなかった。
攻勢を受けながら、何とか、帝都駐留艦隊は行動の秩序を保っていた。
奇襲をまともに受けた時には、一気に壊滅へと向かう雰囲気だった。
それを何とか、ルドリフの指揮により、押し止めていた。
とは言え、一方的に攻撃されていた。
今は、何とか損害量の加速度を小さくするだけで、精一杯だった。
「閣下、このままでは……」
流石に、エンリックも口を挟まない訳には行かなくなったようだ。
だが、それより、早く、
「艦隊、密集隊形のまま、北上せよ」
とルドリフは命令を下した。
「一点突破を図るのですな……」
エンリックは、すぐに指揮官の意図を察した。
「今はこの手しかあるまい」
ルドリフは、北の方角をジッと見詰めながらそう言った。
危機的な状況下、取り乱さない所は流石である。
それ故に、艦隊の秩序が乱れないのだろう。
「ですが、閣下……」
エンリックは、意見しようとしたが、思い止まった。
ルドリフは、エンリックが言いたい事が分かっていると察したからだ。
北を遮断しているのはアスウェル艦隊だった。
3個艦隊の中で、一番数が多く、練度も高い。
一番の難敵だ。
現在、海戦が行われている事は味方には伝わっていないだろう。
つまり、帝都からもサキュスからも援軍は来ない。
ならば、自力で突破する他ないので、近い方のサキュスに向かう他ない。
そして、真北では恐らくいないが、北側にエリオ艦隊がいるのは確実だった。
そこまで分かってしまったので、エンリックは異議を唱えるのを止めた。
ルドリフの方も、エンリックが何を言いたいか分かったのかもしれない。
「……」
ニヤリとはしたが、何も言わなかった。
この辺は、お互い、死線を潜り抜けた間柄で、強い絆があった。
駐留艦隊はやがて、ゆっくりながら北上を開始した。
砲弾の雨霰と言った感じで打ち込まれている中、北上を開始した。
王都に駐留していたとは言え、流石、勇猛で知られたハイゼル艦隊と言った所だった。
これに対して、アスウェル艦隊もゆっくりと北上し、後退し始めた。
きちんと距離を測っているような後退の仕方で、駐留艦隊の集中攻撃を上手くいなしていた。
それと連動して、ティセル艦隊は駐留艦隊と同じ動きをした。
そして、後方に当たるアトニント艦隊は、駐留艦隊の後方に砲火を集中し始めた。
流石の連動である。
戦場は北上しているが、包囲網は全く崩れなかった。
(小僧め……)
ルドリフは、口にこそ出さないが、エリオを高く評価していた。
そして、それが、笑みとして現れてしまった。
「!!!」
エンリックは、それを見て、驚いていた。
「エンリック、貴様には感謝している」
ルドリフは、進行方向をジッと見ながらそう言った。




