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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
18. 激突 エリオvsルドリフ

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その4

「小僧の位置は?」

 ルドリフは、圧倒的不利な状況下で、ギョロリとした恐ろしい目で聞いてきた。


「現在の所、不明です」

 ステマネは、即答した。


「くっ!!」

 ルドリフは、忌々しそうに顔を歪めた。


 艦隊は文字通りの全滅のピンチ。


 こんな時に、エリオの位置を確認するとは……。


 でも、まあ、ルドリフにとっては、当たり前の事なのかも知れない。


 今回の進軍は、表向きの理由はともかくとして、エリオ討伐の為に起こしたものだったからだ。


 とは言え、3個艦隊のクライセン艦隊の連携した攻撃である。


 総司令官のエリオが、この戦場にいない訳はない事だけは確かだった。


 それに、ルドリフの恨みはともかくとしても、戦況を好転させる為には、総司令官を叩くのが定石である事も確かである。


 その為にも、ルドリフは、エリオの位置を知る必要があった。


 だが、当然、クライセン3個艦隊の攻勢は弱まる事を知らなかった。


 攻勢を受けながら、何とか、帝都駐留艦隊は行動の秩序を保っていた。


 奇襲をまともに受けた時には、一気に壊滅へと向かう雰囲気だった。


 それを何とか、ルドリフの指揮により、押し止めていた。


 とは言え、一方的に攻撃されていた。


 今は、何とか損害量の加速度を小さくするだけで、精一杯だった。


「閣下、このままでは……」

 流石に、エンリックも口を挟まない訳には行かなくなったようだ。


 だが、それより、早く、

「艦隊、密集隊形のまま、北上せよ」

とルドリフは命令を下した。


「一点突破を図るのですな……」

 エンリックは、すぐに指揮官の意図を察した。


「今はこの手しかあるまい」

 ルドリフは、北の方角をジッと見詰めながらそう言った。


 危機的な状況下、取り乱さない所は流石である。


 それ故に、艦隊の秩序が乱れないのだろう。


「ですが、閣下……」

 エンリックは、意見しようとしたが、思い止まった。


 ルドリフは、エンリックが言いたい事が分かっていると察したからだ。


 北を遮断しているのはアスウェル艦隊だった。


 3個艦隊の中で、一番数が多く、練度も高い。


 一番の難敵だ。


 現在、海戦が行われている事は味方には伝わっていないだろう。


 つまり、帝都からもサキュスからも援軍は来ない。


 ならば、自力で突破する他ないので、近い方のサキュスに向かう他ない。


 そして、真北では恐らくいないが、北側にエリオ艦隊がいるのは確実だった。


 そこまで分かってしまったので、エンリックは異議を唱えるのを止めた。


 ルドリフの方も、エンリックが何を言いたいか分かったのかもしれない。


「……」

 ニヤリとはしたが、何も言わなかった。


 この辺は、お互い、死線を潜り抜けた間柄で、強い絆があった。


 駐留艦隊はやがて、ゆっくりながら北上を開始した。


 砲弾の雨霰と言った感じで打ち込まれている中、北上を開始した。


 王都に駐留していたとは言え、流石、勇猛で知られたハイゼル艦隊と言った所だった。


 これに対して、アスウェル艦隊もゆっくりと北上し、後退し始めた。


 きちんと距離を測っているような後退の仕方で、駐留艦隊の集中攻撃を上手くいなしていた。


 それと連動して、ティセル艦隊は駐留艦隊と同じ動きをした。


 そして、後方に当たるアトニント艦隊は、駐留艦隊の後方に砲火を集中し始めた。


 流石の連動である。


 戦場は北上しているが、包囲網は全く崩れなかった。


(小僧め……)

 ルドリフは、口にこそ出さないが、エリオを高く評価していた。


 そして、それが、笑みとして現れてしまった。


「!!!」

 エンリックは、それを見て、驚いていた。


「エンリック、貴様には感謝している」

 ルドリフは、進行方向をジッと見ながらそう言った。


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