その8
太陽暦535年6月、ラ・ライレの葬儀は、しめやかに行われた。
ラ・ライレは、多くの国民の為に善政を敷いていた。
その為、多くの国民が悲しみに暮れていた。
喪主であるリ・リラは、立派にその役割を果たした。
その事により、ラ・ライレを失った国民達の未来に対する懸念は少しは和らいではいた。
葬儀後、リ・リラは、内外に即位を宣言し、正式に女王になった。
即位式自体は、喪が明けた後に、執り行われるが、これでリ・リラが国を仕切る事になる。
それを補佐するのが、エリオ。
無論、その他にも補佐する人間はいる。
だが、17歳と18歳、この若すぎる2人に、ほとんどの荷重がかかる事になる。
能力はともかく、年を考えると、王国が不安定化するのは必定と言える状況だった。
「さて、あたしと同い年の2人が、どう国を運営していくのが見物ね」
サラサは、少し意地悪そうにそう言った。
サラサ達は既に、ワタトラに戻っていた。
今は、艦隊の整備状況を確認していた。
その最中に、リ・リラ即位の報がもたらされていた。
「閣下、ですから、クライセン公は閣下より1つ年上ですよ」
バンデリックは、相変わらず、覚える気がないなと思いながら苦笑していた。
「一々、そんな細かい事はいいのよ」
サラサは、話の腰を折るなと言った感じで、迷惑そうな表情になった。
その言葉を聞いて、勿論、バンデリックは、呆れた。
同じ事を言われたからだ。
(ん?『一々』?)
バンデリックは、サラサの言った言葉に引っ掛かりを覚えた。
何度も指摘されている事には気付いているようだった。
つまり、エリオを相当意識している事の証左だった。
(意地でも、クライセン公を下に見たいのですね……)
バンデリックは、サラサのエリオに関しての考えが、相変わらず、子供じみていると思って、失笑しそうになった。
だが、そこができる雰囲気ではない事は、ここで書く事もないだろう。
「能力的には問題がないと思いますが、それでも、不安定化しますか?」
バンデリックは、慌てて、話題を変える意味でも、質問をしてみた。
その質問に対して、サラサは少し表情が険しくなった。
不味かったか?と、バンデリックは、感じた。
ライバルを褒めた事になったからだ。
「能力的にはそうなんでしょうね……」
サラサは、依然として、少し険しい表情で言った。
「???」
バンデリックは、意外そうな顔をした。
バンデリックが、思っていた事とは違う事を懸念している感じを受けたからだ。
「人って、能力だけで判断される訳ではないからね」
サラサは、少し溜息交じりでそう続けた。
「!!!」
バンデリックは、その言葉を聞いて納得した。
異形と呼ばれるサラサ。
銀髪に、赤銅色の目。
それ故に、能力を正当に評価しない勢力が多い。
そう、人は、その人の能力だけではなく、地位、風体、雰囲気によっても、評価が大きく左右される。
「それに、自分の置かれている立場も、大きく影響する」
サラサは、今まで自分の受けてきた仕打ちを思い出すように、しみじみと言った。
「確かに」
バンデリックは、納得する他なかった。
自分の立場を強化する為に、相手を貶めるのはよくある事だ。
(でも、それって、お嬢様も、クライセン公に対して、斜めに見ていますよね……)
そう気付くと、バンデリックは、笑いそうになるが、堪えた。
「荒れますかね」
バンデリックは、笑いを堪える意味でも、極めて深刻そうにそう言った。
とは言え、必ずしも出任せで言った訳ではなかった。
どう考えても、そう言う結論に至る他、思い付かなかった。
「ええ、荒れるでしょうね」
サラサは、何時になく真剣に表情で、バンデリックに同調した。
ごくりっ……。
バンデリックは、その空気に押されて、思わず生唾を飲み込んだ。
「リーラン沖での、腹の探り合いで終わるという事だけはないわね」
サラサは、何時になく緊張しながらそう言った。
勿論、それは武者震いと言った感じであるのは言うまでもなかった。




