その7
「貴公、陛下のお体が良くないと聞いたのだが、聞いているか?」
ロジオール公が、ヘーネス公に聞いた。
2人は、普段、御前会議が行われる会議室にいた。
また、ここで言う陛下とはリ・リラの事である。
国内外にはまだ正式に王位継承は宣言してはいないが、上層部では既にそのような敬称になっている。
「いや、執務を一旦お休みになっている事は聞いている」
ヘーネス公は、低くゆっくりした口調でそう答えた。
息子のヤルスからは、報告は聞いていた。
「それにしても、3公会議とは、全く珍しいな。
俺が爵位を継いでから、初めての事だな」
ロジオール公は、現在の状況を把握しようとしていた。
「……」
ヘーネス公は、それについて、何の意見もなかったので、沈黙していた。
2人は、エリオに呼び出される格好になっていた。
今回の会議を招集したのは、エリオだった。
珍しく、筆頭貴族の権限を使ったのだった。
「まあ、その辺も含めて、クライセン公から説明があるか……」
ロジオール公は、話に乗ってこないヘーネス公を尻目に、所在なさげだった。
まあ、呼び出した本人が来ていないので、どうする事も出来ないでいたからだ。
「クライセン公エリオ閣下、ご到着なさいました」
部屋の外から、声がすると、扉が開かれた。
エリオは、息を切らせながら部屋へと入っていった。
(意外と早く来たな……)
ロジオール公は、部屋に入ってくるエリオを見ながらそう思った。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
エリオは自分の席に着きながら、遅れてきた謝罪をした。
「いや、それは問題ない。
貴公こそ、帰還早々、色々やる事があり、大変だな」
ロジオール公は、逆にエリオを労った。
「あ、いや……」
エリオは何と答えていいか分からないと言った感じだった。
何だか、今までの怠惰な行動を咎められている気になっていたからだ。
無論、ロジオール公にはそんなつもりは毛頭なかった。
日頃の行いの悪さが、出た格好だ。
「早速だが、クライセン公、現状の説明をして貰いたい」
ヘーネス公は、無駄な時間を過ごしたくないとばかりに、脱線しようとした雰囲気を戻した。
「そうだな、まずは、陛下のご容体を聞こう」
ロジオール公は、ヘーネス公の言い分は尤もだと感じ、話を進めるように促した。
ただ、エリオはロジオール公の言葉にちょっとびっくりしていた。
(そうか、そうなるよな……)
エリオは少し考えてみると、今の状態は、ある意味非常事態になると感じた。
「陛下は、お疲れになっていると思いますが、大丈夫です」
エリオは、まず、リ・リラの状態を説明した。
ロジオール公とヘーネス公は、同時に、安心したようだが、同時に怪訝そうな表情になった。
「今は予防策として、お休みして頂いております。
このままにしておきますと、倒れてしまう恐れがありますからね」
エリオは、更に説明を加えた。
ロジオール公とヘーネス公は、リ・リラの執務状況を思い出したのか、同時に頷いた。
納得してくれたようだ。
「そうか、そうだな。
懸命な判断と言えるな」
ロジオール公の方は、納得した事を言葉にした。
その言葉を聞いて、エリオは安心した。
ヘーネス公の方を見て一応確認したが、異論はなさそうだった。
「それにしても、流石の陛下も、貴公の忠告には素直に従うのだな」
ロジオール公は、少し笑いながらそう言った。
(ん?また、言われたが……)
リーメイと同じ事を言われたエリオは、再びリ・リラとのやり取りを幼少の頃まで遡ってみた。
だが、やはり、そんな場面を思い出す事はなかった。
「……」
ヘーネス公は、その事に関しては無関心だったので、またしても無言だった。
その表情を見た時、エリオは現実に連れ戻された感覚になった。
「さて、今回、集まって頂いたのは、陛下にはラ・ライレ陛下の葬儀の時までお休みして頂く事をお知らせすると共に、その時の執務を3人で役割分担する事を確認する為です」
エリオは、本来の目的の話をし始めた。
エリオが、初めて能動的に国務に携わった瞬間かも知れない。




