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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
17.急変

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その5

 艦隊は、速やかにモルメリア島を出港した。


 目的地はカイエス。


 出来るだけ、素早く王都に戻る事のみ考えていた。


 艦隊は、クライセン哨戒網に達すると、エリオは、マイルスターに艦隊を任せた。


 自分はシャルスと共に、哨戒艦へと移った。


 これは、速度のみを考えた場合、こちらの方が有利だからだった。


 その後も、より高速に移動できる手段であれば、海路であれ、陸路であれ、使った。


 その為、艦隊で移動するよりかなり早く王都へと帰還できた。


 王都に戻ると、そのまま王宮へと入った。


 誰もが、エリオが現れた事に驚いていた。


 知らせが届くであろう日にちより遙かに早く着いたからだ。


 エリオは、そんな事を気にせずに、女王の執務室へと急いだ。


 執務室の前まで行くと、衛兵に取り次ぎを頼んだ。


「殿下、クライセン公エリオ閣下がお見えです」

 衛兵はノックの後に、部屋に向かってそう告げた。


 ……。


 中からは、反応がなかった。


 だが、中からは異様な熱気が漂っていた。


 衛兵は困ったように、エリオを見てから、再び中に向かって声を掛けようとした。


 それをエリオが、衛兵の肩に手を置いて、制した。


 衛兵は戸惑いながらも横に避けた。


 エリオは、扉を自分で開けると、中に入った。


 そして、エリオが中に入り、扉を閉めると、熱気の孕んだ空気が止まった。


 中には結構な人数がいて、その人間達が一斉に仕事の手を止めて、エリオに注目した。


 既に、ラ・ライレの訃報はエリオの知る所となっていた。


 そして、中の人間達は、その事によって生じた数々の仕事をこなしていた。


 突然の出来事で、悲しいのだが、生者にはやるべき事が沢山ある。


 なので、立ち止まっている場合ではなかった。


 エリオと目が合ったヤルスは立ち上がって、何か、行動を起こそうとした。


 だが、それより早く、エリオはそれを手で制した。


 制されたヤルスはその場で立ち竦む他なかった。


 エリオは、歩みを前に進めた。


 そして、未だに仕事をしていて、こちらを見ようとしない人物の前で立ち止まった。


「殿下……、いえ、陛下、この度はご愁傷様でございます。

 心よりお悔やみ申し上げます」

 エリオは、深々と頭を下げた。


 その様子を固唾を呑んで、周りの人間は見ていた。


 一方のリ・リラは、全く反応を示さなかった。


 エリオがそこにいないかのように、仕事を続けていた。


 仕事を続けているリ・リラは、いつも通りで、気丈だった。


 だが、エリオはそんなリ・リラの姿を見て、心臓を抉られる以上の痛みを覚えた。


「皆さん、お忙しい所、申し訳ございませんが、仕事は別の所で、やって頂けませんか?」

 エリオは、リ・リラを見ながら静かにそう言った。


 !!!


 一同はびっくりしていた。


 だが、そんな中、ヤルスは自分の担当書類を纏めると、無言で他の者も同調するように求めた。


 とんとん……。


 そこかしこから、書類を纏め、それを両手に持つ姿があった。


 そして、扉が開かれると、一斉に退出し始めた。


 最後に、ヤルスが一礼して、退出すると、扉が閉じられた。


 それでも、リ・リラは、エリオを見よとせずに、仕事を続けていた。


 エリオは、机を回り込み、リ・リラの傍へと近付いていった。


「わたくしの意向を無視する気?」

 リ・リラは、エリオが傍に来た事でようやく口を開いた。


 エリオは少し安心はしたが、仕事を尚も続けようとしているリ・リラに真後ろに立った。


 そして、ゆっくりと手を伸ばすと、筆を取り上げた。


「あなたは一番必要な時にいなかったじゃないの!!」

 リ・リラは、いきなり激高した。


 しかし、それでもエリオの方は見ようとしなかった。


「ごめん、リ・リラ……。

 これからはずっと傍にいるから」

 エリオは、ゆっくりと優しくリ・リラに語り掛けた。


「本当に?」

 リ・リラは、潤んだ瞳でエリオの方をようやく見た。


「はい、誓います」

 エリオは、更に優しく応えた。


「エリオ、お祖母様が……、お祖母様が……」

 リ・リラは、必死にそう言い続けたが、言葉がもう出てこない様子だった。


 エリオは、居たたまれなくなり、やさしくリ・リラを抱きしめた。


 リ・リラは、びっくりしたが、同時に安心した。


「悲しんでいいんだよ」

 エリオが、リ・リラを安心させるように言った。


「うぁぁぁ!!」

 リ・リラは、これまで我慢していた悲しみが、堰を切ったように溢れだして、泣き出してしまった。


 エリオは、それを全て受け止めるかのように、リ・リラの頭を優しく撫でていた。


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